2004年03月06日(土) |
虚偽広告映画<マスター・アンド・コマンダー> |
20世紀フォックス、ミラマックス、ユニバーサルが製作し、ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(つまりディズニー)が日本配給をした「マスター・アンド・コマンダー」の宣伝がおかしい。予告編ではラッセル・クロウ演じる海軍の艦長と子供たちとの交流の物語のような印象を与えながら、実際に本編を観るとその受ける印象が余りのもかけ離れているのだ。その虚偽宣伝に怒ったラッセル・クロウのファンがブエナ・ビスタに猛抗議。ついには日本広告審査機構(JARO)が動いて、厳重注意を与えるという大騒動に発展している。2月12日号「週刊文春」でも「R・クロウファン激怒 歴史大作映画を貶める『虚偽宣伝』」という記事で取り上げられ、以下のような分析がされている。
「日本は、劇場まで足を運ぶ映画ファンは女性ばかり、という特殊な市場。男たちの激しい戦いだけが続くこの作品を売るために、苦肉の策として母性本能をくすぐる作戦に出たのでしょう。」
この事件の詳細な経緯はこちらのサイトに詳しい。
さて、映画自体の感想は予告編とは似ても似つかない男臭い仕上がりになっている。とにかく海戦における音響効果が非常に臨場感があって、まるで海上版「ブライベート・ライアン」か「ブラック・ホーク・ダウン」といったド迫力だ。先日のアカデミー賞で音響編集賞を受賞したのも大納得の仕上がりである。アカデミー賞では撮影賞も受賞したのだが嵐の場面の映像が凄い。マストの上に立つラッセル・クロウの雄姿も格好いい。ただ、正直撮影では「シービスケット」の方が素晴らしいと僕個人は想っているのだが…。
しかし、それだけの映画である。僕は余りこの物語自体を好きにはなれなかった。確かに冒険活劇としての面白さはある。しかし、冒険活劇に必要不可欠なのは同情の余地のない絶対悪である敵の存在だと想う。例えば「ロード・オブ・ザ・リング」ならばサウロンやサルマンであるとか、「インディー・ジョーンズ」シリーズならばナチス・ドイツ、007シリーズなら嘗ては旧ソビエト連邦、現在なら北朝鮮とか。そういう完膚無きまでにやっつけても痛痒だにしない相手でないと爽快感が得られない。そういう意味では「マスター・アンド・コマンダー」では敵はナポレオン時代のフランス海軍なのだが、果たして彼らが本物の悪党なのか観客に対する説得力が皆無なのだ。主人公たちの属するイギリスの「正義」に対して疑念を抱かずにはいられない。何故ならイギリスだって世界各国で略奪の限りを尽くしてきた海賊に過ぎないのだから。だから可愛らしい顔をした子供が「フランスの奴らを皆殺しにしろ!」と叫ぶ場面などは、そのおぞましさにむしろ背筋か凍る想いがした。
「何故戦うのか?」国民や兵士に対してその戦争行為の大義に疑念を抱かせた瞬間に、その国家は明らかに負けである。ベトナムもそうだったし、いずれ今回の対イラク侵略戦争もそうなるであろう。審判の日は近い。日本政府はいつまでその愚行を盲目的に支持し、追従するつもりなのか・・・というのは、また別の話。
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