エンターテイメント日誌

2003年12月20日(土) 日米アニメ対決!<東京編>

これは前回<グレートバリアリーフ編>からの続きである。

来年のアカデミー賞長編アニメーション部門における、ノミネート資格を持つ11作品が発表となった。以下の通り。

「ブラザー・ベア」「ファインディング・ニモ」「ジェスター・ティル」「ジャングルブック2」「ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」「ピグレッツ・ビッグ・ムービー」「劇場版ポケットモンスター/水の都の護神 ラティアスとラティオス」「ラグラッツ・ゴー・ワイルド」「ザ・トリプレッツ・オブ・ベルビルド」

このうちから3作品がノミネートされる。ジャパニメーションが3作品、うち今敏監督の「千年女優」と「東京ゴッドファーザーズ」の2作品が対象となっていることが注目される。しかし、結局は「ニモ」が100%間違いなく受賞するだろう。

なにも同じ今敏監督作でアカデミー賞を競い合わなくても、「東京ゴッドファーザーズ」の公開を先延ばしにすればチャンスが増えるのにと考えるむきもあろう。しかし、そうはいかない事情があるのである。来年日本では世界のアニメーションをリードする巨匠、いわるゆる<御三家>がそろい踏みをする。宮崎駿監督が「ハウルの動く城」、「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟を熱狂させた押井守監督が「攻殻機動隊」の続編「イノセンス」を、さらに「アキラ」の大友克洋監督が「スチームボーイ」を公開予定なのだ。いやはや壮観である。このうちいくつの作品が2004年中に北米公開されるかは判らないが、「ハウル」も「イノセンス」も制作にディズニーが加わっており、「スチームボーイ」もアメリカで激しい争奪戦が展開されるのは必至だろう。配給する側も是非アカデミー賞アニメーション部門で受賞したいし、またその可能性が極めて高い3作品である。だからおそらく競合しないように北米では2004年と2005年に分けて公開されることになるだろう。ちなみに2005年にはピクサー社の真打ち、ジョン・ラセター監督期待の新作「Cars」が控えている。宮崎監督としても「千と千尋の神隠し」北米公開で尽力してくれた恩人のラセターさんとオスカーを巡って争いたくはないはずだ。ピクサーとジブリ作品の配給を担当するディズニーとしても両者の激突は避けたいところだろう。だから必然的に「ハウル」の全米公開は2004年になる。つまり今敏監督の映画を2004年に公開しても端から勝ち目はないのである。ゆえにいくら分が悪くても今年勝負せざるを得なかったのだ。

今監督の「千年女優」と「東京ゴッドファーザーズ」を観て感じる印象は「火垂るの墓」「おもいでぽろぽろ」などの高畑勲監督作品を観た後のそれに非常に近いものがある。つまり一言で言えば「実写でやればいいじゃん。」ということ。アニメーションらしいイメージの飛躍に乏しいのである。誰もアニメにリアリズムを求めていないのにという苛立ち。

アニメ・ファンの間での今敏作品の評価は「質は高いが内容がつまらない」ということに集約される。例えば「千年女優」を例に挙げるなら、確かに老女優の回想を彼女が出演した映画の数々を駆け抜けるように戦国時代から未来まで時代を錯綜させて描くというアイディアは秀逸である。しかし、結末がいけない。<鍵の君>である憧れの男を追い続けて時をかけるヒロインがテーマなのだが、最後の台詞が「だって私、あの人を追いかけている私が好きなんだもの。」にはずっこけた。自己完結。結局、ストーカーの話だったんかい!?浪漫もヘチマもありゃしない。お粗末。

「東京ゴッドファーザーズ」は登場する各キャラクターがよく描かきこまれていて、少なくとも「千年女優」よりはマシだった。しかし、偶然の積み重ねに頼り切り、その安易な発想を全て<クリスマスの奇跡>という免罪符で誤魔化そうとする姿勢には感心できない。評価はB-。

名脚本家でもあったビリー・ワイルダーは嘗てこんなことを言っている。「シナリオ作りにおいて偶然を用いても良いのは一幕まで。二幕や三幕で偶然に頼るのは稚拙なライターだ。」その悪しき典型例が「東京ゴッドファーザーズ」である。

この脚本を担当した信本敬子はテレビドラマ「白線流し」で有名だが、実は僕は「白線流し」の初期のファンだった。しかし、ドラマの後半やたらと偶然の積み重ねの展開となりウンザリした覚えがある。例えばヒロインの酒井美紀が大学入試に臨む。試験会場に着く直前、何故か早朝の大学のキャンパス前に妊婦が切迫流産になりかかって倒れ込み、うめいている!?妊婦に付き添って病院に行った彼女は結局試験が受けられなくて浪人するのである!!<<オイオイ。設定自体が異常に不自然だし、彼女は救急車を呼ぶなり試験会場の係員に任せれば病院まで見ず知らずの妊婦に付き添わなくてもすむことだろう。仮に試験が受けられなくても追試という手もある。信本敬子よ、ドラマを盛り上げるためとはいえそりゃあいくら何でも酷すぎる。もう一度基礎からシナリオを勉強し直しなさい。

というわけで「千年女優」も「東京ゴッドファーザーズ」もアカデミー賞の受賞はおろかノミネートも危ういと考える次第である。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]