もう今更だが、「インファナル・アフェア」は香港映画界が総力を結集した大傑作フィルム・ノワールである。まあ、この映画をレビューしている人々が異口同音に褒めたたえているのだから読者の方も良くご存知のことだろう。真の傑作に幾ら賞賛の言葉を並べ立てても空しさが残るだけだ。だから今回は気乗りがしない、筆が重い。ただ「黙って観ろ。」…それだけで充分だ。
僕は公開初日に観たのだが観客が少ないのが気掛かりだ。日本における週末の興業成績ランキングでは初登場5位。既に公開3週目の「S.W.A.T.」(第3位)に負けているようじゃ駄目だろう。香港では「英雄」を凌ぐ大ヒットを飛ばしたのだから日本での実情はお寒い限りである。あれだけ面白いのに余りにも勿体ない。
やはり何といっても「インファナル・アフェア」、この馴染みのない英語タイトルがいけない。何故、亜細亜の映画なのに英語を使う?そんなに英語を使うことが恰好良いのか!?同じ漢字を用いる文化の国同士だろ。原題の「無間道」でよいではないか。それでも意味がわかりにくいというのなら同意の「無間地獄」、これでピッタリ映画の内容に寄り添うではないか。生き続けることこそ地獄。その主人公の心の叫びを聞け!「インファナル・アフェア」というタイトルに決めた配給会社のコムストックの社員はこの映画が日本では興行的に奮わなかった責任に於いてA級戦犯である。
香港のアカデミー賞と呼ばれる第22回香港電影金像奨では「無間道」は最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞、主題歌賞、編集賞の7部門を受賞、一方の「英雄」は最優秀撮影賞、音楽賞、美術賞、音響賞、衣装デザイン賞、アクション振り付け賞、特殊効果賞の7部門を受賞した。余談だが「英雄」で卓越した仕事をした撮影監督のクリストファー・ドイルは「無間道」に於いても<視覚効果顧問>なる肩書きで参加している。オーストラリアで撮った「裸足の1500マイル」といい、最近のドイルの破竹の勢いには目を瞠るものがある。
「無間道」の映画としての完成度の高さは、なにより練りに練られた脚本の面白さに負うところが大きい。そして充実した俳優陣の魅力。僕としては主演男優賞はトニー・レオンじゃなく男の哀愁漂うアンディ・ラウにあげたかったなぁ。彼の孤独な背中を見ていると、まるで<香港映画界の高倉健>という印象を受ける。それから助演男優賞を受賞したウォン警視役のアンソニー・ウォンも勿論素晴らしいのだが、マフィアのボスを演じるエリック・ツァンの凄みのある演技も特筆に値する。必見。
「無間道」といえばワーナー・ブラザースが175万ドルという破格の契約金でハリウッドでのリメイク権を手に入れた話題が先行しているが、来年の米アカデミー賞の外国語映画部門に香港代表として出品が決まったことも忘れてはいけないだろう。「無間道」よ、香港の星から世界の星へ、より燦然と輝け!!
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