エンターテイメント日誌

2003年08月17日(日) <エデンより彼方へ>、あるいはメロドラマの復権

トッド・ヘインズ脚本・監督の映画「エデンより彼方へ」はメロドラマの巨匠と言われたダグラス・サーク監督の1955年作品「天はすべてを許し給う」へのオマージュとして製作されたという。だからその「天はすべてを許し給う」を観ていない者はこの映画を批評する資格などないのである。勿論「面白かった。」とか「詰まらなかった。」などといった中身が空っぽの感想文はその範疇に含めない。温故知新、映画は繋がっている。

正直に告白しよう。筆者は「天はすべてを許し給う」はおろか、サーク監督の映画を一本も観たことがない。しかし、サーク作品を知っている映画ファンは現在、日本に殆ど存在しないのではなかろうか?サーク監督は比較的最近になって高く評価されるようになったようで、現役当時はハリウッドでメロドラマを上手に撮る職人監督程度の認識しかされていなかったみたいだ。そういう意味ではサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックやコメディの天才プレストン・スタージェスに似ていると言えるかも知れない。だから「天はすべてを許し給う」など大半の作品は日本未公開だし、代表作と言われる「悲しみは空の彼方に」(1959)を含めサーク作品は日本でDVDはおろか一作品たりともビデオ化さえされていないという惨状なのである。映画評論家の川本三郎さんは「エデンより彼方へ」の批評を書くにあたり、未見だった「天はすべてを許し給う」のビデオをわざわざアメリカから取り寄せられたと書かれていた。

という訳で筆者には「エデンより彼方へ」を語る資格がないので、いずれ「天はすべてを許し給う」「風と共に散る」「悲しみは空の彼方に」といったサーク監督のハリウッド時代の代表作と言われる映画たちのDVDをアメリカのAmazon.comあたりから個人輸入した上で正式にレビューしたいと考える。それまでしばしお待ちあれ。

これから後は他愛のない感想である。「エデンより彼方へ」は正真正銘のメロドラマであることに間違いはないのだが、トッド・ヘインズ監督はダグラス・サークを21世紀に甦られるにあたり、新機軸として1950年代では表現が不可能だった要素を加味した。それが黒人差別問題であり、同性愛である。それが巧くメロドラマの世界に溶け込み、味わい深く余韻のある作品に仕上がっている。アカデミー賞にノミネートされた紅葉の鮮やかな色彩が美しい撮影も見事である。ただし、さすがにコンラッド・L・ホール の渾身の遺作「ロード・トゥー・パーディション」(アカデミー撮影賞授賞)の息を呑む映像には到底及ばなかったが。

特筆したいのはエルマー・バーンスタインの音楽。オーソドックスではあるが文句なしの傑作。「十戒」「荒野の七人」「アラバマ物語」「エイジ・オブ・イノセンス」の巨匠が久しぶりに気を吐いた。是非彼にはこれでオスカーを授賞して欲しかった。

ヒロインを演じたジュリアン・ムーアはやけにウエストが太くなったなぁと想いながら映画を観ていたのだが、なんと撮影当時妊娠5ヶ月だったそうである。どうりで!納得。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]