エンターテイメント日誌

2003年04月26日(土) コロンバイン高校とサウスパーク

「ブッシュよ、恥を知れ。お前の持ち時間は終りだ!」とぶち上げて、アカデミー賞の会場を騒然とさせたマイケル・ムーア。オスカーに政治的問題を持ち込むべきではないという議論はベトナム戦争の頃からあった。僕もそう思う。映画と無関係なスピーチをするのはおかしいし、オスカーはそういう祭典ではない。しかし、今回のムーアの場合は事情が違う。授賞対象はアメリカの銃社会を笑い飛ばすドキュメンタリー映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」であり、ブッシュ大統領も映画の中に登場する。ムーアは映画に関するスピーチをしただけなのだ。その点で、あのアホでマヌケな「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディとは一線を画する。

「ボーリング・フォー・コロンバイン」に登場する人物で一番惚れたのはマリリン・マンソンだ。コロンバイン高校の生徒が銃を乱射したのはマンソンのファンだったからだと社会から責任転嫁をされたことの感想を聞かれ、彼はこう答える。
「ああ、おれはBAD GUY(悪いヤツ)さ。だってロックン・ロールをやってるんだぜ。」
なんて明快でカッコいい回答だろう!痺れた。ロッカーの心意気・反骨精神、ここにあり。

「ボーリング・フォー・コロンバイン」にはさらにアメリカで絶大な人気を誇るアニメーション「サウスパーク」の作者マット・ストーンがコロンバイン高校の卒業生として登場する。さらに映画に挿入される悪意に満ちた笑いの詰まったアニメ、A BRIEF HISTORY OF AMERICAはマットの相棒、トレイ・パーカーが学生時代に製作したアニメ「アメリカの歴史」AMERICAN HISTORYを元にしている。これが面白い。この小品はここをクリックしてもらえば観ることが出来る。マリリン・マンソンやマット・ストーンが登場するクリップもある。

先日日本で、親が子供に一番見せたくないテレビ番組に「クレヨンしんちゃん」が選ばれた。同様の調査をアメリカでするとダントツ1位になるのが「サウスパーク」である。放送禁止用語連発でなんともお下品なアニメであると<良識ある大人たち>は考えている。しかし、「サウスパーク」で連発されるブラック・ジョークの切り口は鋭い。マットとトレイのコンビはあらゆるタブーに挑戦する。キリスト、同性愛、ユダヤ人問題、メキシコ人差別、KKK(クー・クラックス・クラン)、貧富の差、障害者いじめ、銃規制問題からバーブラ・ストライザンドまで(笑)。全てがギャグの対象だ。その果敢なチャレンジ精神が清々しい。日本で言えばアイヌ、在日朝鮮人、部落差別、右翼や左翼、天皇をギャグのねたにするようなものだ。そんなことは我が国では到底考えられない。そういう意味ではやはりアメリカは自由の国なんだなぁと実感する。

「サウスパーク 無修正映画版」は下ねたギャグを映画やテレビで連発するカナダ人コメディアンのまねを子供たちがするので、それに激怒した大人たちがカナダと戦争を始めるという作品だが、この映画に登場する<カナダが悪い>BLAME CANADAという唄がある。この唄はなんとアカデミー賞にまでノミネートされた。その歌詞が可笑しい。
「全てカナダが悪いんや。カナダのせいにせんと、親が責められるで。」
これは正にコロンバイン高校で生徒が銃を乱射したことの原因を、刺激的なテレビ番組やマリリン・マンソンのせいにしたアメリカ社会を象徴しているではないか。そうしないと銃が簡単に手に入る現実が悪いのだとバレたら困るのだから。映画にフセインが登場するのも時代を先取りしていて鋭い。

「サウスパーク 無修正映画版」はまた、本格的なミュージカル映画として出色の出来である。作詞・作曲まで担当しているトレイ・パーカーのミュージカルに対する真摯な愛が溢れている。この映画のオープニングは「サウンド・オブ・ミュージック」もどきではじまり、それがいつの間にかディズニーの「美女と野獣」のナンバー'BELLE'になる。他にも「オクラホマ!」「メリー・ポピンズ」「チキチキ・バン・バン」「リトル・マーメイド」「雨に唄えば」「ウエストサイド物語」「レ・ミゼラブル(レミゼ)」「巨星ジーグフェルド」そして水着の女王エスター・ウィリアムズ主演の「百萬弗の人魚」などをパロディにしたことが明らかな楽曲が続き観ていて飽きない。特にレミゼのパロディ「ラ・レジスタンス」には大爆笑。ミュージカルが好きな人にも、そうでもない人にもお勧めの大傑作である。DVDが既に発売されているが、字幕版は勿論のこと、大阪弁や名古屋弁・東京弁の交じり合う日本語吹き替え版の出来もよいので両方で愉しまれると良いだろう。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]