エンターテイメント日誌

2003年04月09日(水) アボリジニと映画

「酔っぱらった馬の時間」は国家を持たない悲劇の民族、クルド人の言葉で撮られた世界で初めての映画だった。そういう意味ではオーストラリアの先住民族アボリジニを主人公とした「裸足の1500マイル」も極めて珍しい映画と言えよう。

アボリジニと映画で想い出すのは米国初の宇宙飛行士達を描く名作「ライト・スタッフ」である。しかしあの映画で登場するアボリジニの老人は非常に神秘的存在であり、それが現代の神話とでも言うべき「ライト・スタッフ」に独特の雰囲気を醸し出していた。

一方「裸足の1500マイル」は実話を元にしており、リアルなアボリジニの人々が描かれている。オーストラリアでは1970年代まで映画で描かれているような先住民隔離同化政策が行われていたというのは真に驚くべき話であるが、その重いテーマを見事なエンターテイメント作品に昇華した製作者達の手腕は大したものだ。フィリップ・ノイス監督作品は今まで「パトリオット・ゲーム」(92)、「今そこにある危機」(94)「ボーン・コレクター」(99)等観ているが、余り巧い演出家という認識はなかった。いやはや失礼した!

まあ、この映画の結末は見え見えでそういう意味では全く驚きがないのだが、やはりこれだけ見応えのある作品に仕上がった最大の功績は撮影監督のクリストファー・ドイルに帰するところが大きいだろう。兎に角映像が流麗で目を瞠る。放浪のカメラマン、「恋する惑星」「ブエノスアイレス」などウォン・カーウァイ監督作品で知られるアジア映画界最大の耽美派のドイルだが、故郷オーストラリアで撮るのはこれが初めてだという。それだけに熱い想いがスクリーンを通してビシビシと観ている側に伝わってくる。オーストラリアの大地の鮮烈な黄色。それが主人公の少女たちが拉致されて白人社会に連れてこられると冷え冷えとした青い色調に様変わりする。その色彩設定の見事なこと。ブラボー!!ドイルが中国のチャン・イーモウ監督と組んだ最新作「英雄/HERO」も大いに期待する。

「ハリー・ポッターと秘密の部屋」では精彩を欠いたケネス・ブラナーが本作では独善的で嫌みなネビル=デビル役を生き生きと嬉しそうに演じている姿が微笑ましかった。これぞ正に彼の独壇場。さすが“ローレンス・オリビエの再来”と言われるだけのことはあると今回見直した。

ただ唯一不満だったのは映画の冒頭ではアボリジニの言葉が使われているのだが、それが物語の進行とともに、子供たちの会話までだんだんと英語に切り替えられてしまっていること。まあ、この映画を一番見て欲しい人種は英語圏の白人(WASP)なのだから仕方ないといえばそうなのだが、少々残念・・・


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]