エンターテイメント日誌

2002年12月21日(土) 今一番お洒落な映画。

どの時代にもそれを観る行為自体、そしてそれを語ることがお洒落と見なされる映画がある。過去の例を挙げるなら例えばリュック・ベッソン監督の「レオン」がそうであり、岩井俊二の「スワロウテイル」もそうだった。最近の端的な例は勿論「アメリ」であり、これは<アメリ現象>とまで称されるほどの爆発的ブームを巻き起こした。

そしていまそういうムーブメントの最前線に位置する映画がフランス映画「8人の女たち」である。これを知らないお父さんたちは年頃の娘から馬鹿にされるし、観ていない者は時代遅れの烙印を押されるのである。当作品を上映中の東京の映画館では初回上映から立ち見の出る大盛況が続いており、本国フランスでは「アメリ」を抜くオープニング記録を樹立したという熱波が日本にも着実に押し寄せてきている。

確かに観に行った映画館の客層は女性客が大半であり、20-30代を中心に上品な中年の女性たちの姿も少なくなかった。「この中で『アメリ』も映画館へ観に行った人は?」と質問を向ければ間違いなく8割以上の人々が手を上げるだろうという雰囲気だった。

映画は一応ミュージカル仕立てだが、8人の女たちが次々にソロを披露するという構成でデュエットなど重唱はない。唄の入り方は唐突だし所詮唄と踊りは素人の女優たちなので、ミュージカル映画としての観念からすると決して上出来とは言えない。まあウディ・アレンの「世界中がアイ・ラヴ・ユー」とかケネス・ブラナーの「恋の骨折り損」程度のレベルである。

しかしこの映画の最大の魅力は8人のフランスを代表する女優たちの共演であり、そのアンサンブルの華麗さ、見事さにはただただ舌を巻き、その豊饒なる味わいに圧倒されるばかりである。嗚呼、その艶やかさときたら!それは喩えるならば8本の名花の如し。だからオープニング・タイトルで女優一人ひとりの名前にそれぞれ別個の花が添えられているという粋な演出が見事にはまった。「アラビアのロレンス」など男しか登場しない映画というのは過去にあったが、女だけ(唯一登場する男は後ろ姿のみ)という例も珍しい。

特筆すべきはファニー・アルダンとカトリーヌ・ドヌーブという二大女優の夢の共演。この「隣の女」と「終電車」というフランソワ・トリュフォー監督の名作に主役を張った女優たちが花火を散らすのである。なんたるスリリング。そしてドヌーブとダニエル・ダリューといえば先にジャック・ドゥミ監督の名作「ロシュフォールの恋人たち」で共演している。そしてこの「8人の女たち」で女優たちが身にまとう色彩豊かな(テクニカラーの)衣装たちは、明らかにドゥミの「ロシュフォールの恋人たち」や「シェルブールな雨傘」を連想させる。そういう風にこの作品にはトリュフォーやドゥミたちが撮った往年のフランス映画への敬意がいっぱい積み込まれているのだ。

ちなみに「ロシュフォールの恋人たち」や「シェルブールな雨傘」でのドヌーブの唄は吹き替えだが今回は地声で唄っている。

エマニエル・べアールは撮影時37歳とは到底信じられない若々しさ、そしてその色気に悩殺された。それから何といってもヴィルジニー・ルドワイヤンのピンクの衣装がとっても女の子らしくて可愛かった。

これは密室劇なので当然舞台化しようという動きは出てくるだろう。しかし、この映画が見応えあるのは素晴らしい女優たちのお陰なのであり、舞台化するのならばそれ相応の大女優を結集しなければ空疎なものにしかならないだろう。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]