エンターテイメント日誌

2002年09月07日(土) 地方発、全国へー映画<なごり雪>始動

大林監督の最新・最高傑作との呼び声が高い映画「なごり雪」については既に4月22日と5月12日のエンターテイメント日誌で触れた。大分県臼杵市で撮影されたこの作品は、4月の大分での上映を皮切りに大林監督と伊勢正三さんのトークとコンサート付きの上映会が山口や広島などで行われ、現在北上中である。そして筆者は9月6日に愛媛県松山市の全日空ホテルで開催された「スクリーン・コンサート」に往ってきた。東京、有楽町スバル座での上映は9月28日、大阪OS劇場C.A.Pでの上映は10月5日から。まさに<地方から発進し全国へ>というこの映画の姿勢に相応しい展開である。

コンサート・ホールなどで行われる他会場が大体入場料3500〜4000円なのに対し松山だけは前売り6000円当日7000円というぼったくり(笑)。さすが全日空である。だから非常に高額なので集まる人数は少ないだろうと高をくくっていたら、甘かった。開場時刻30分前に着くと既に100人くらいの列が出来ていて目を剥いた。最終的に用意された1000席弱の椅子がほぼ満席となった。

大分県では「千と千尋の神隠し」に匹敵する大ヒットとなったこの「なごり雪」だが、その他の地域でも着実な観客動員を望めそうな手ごたえを感じた。こういうユニークで手作りの温もりのある配給の仕方を決断した映画会社、大映(山本洋プロデューサー)の大英断をこそ、まず讚えたい。そういう意味で、この「なごり雪」は21世紀の新しい日本映画のあり方に一石を投じるものとなった。

スクリーン・コンサートが始まったのは午後6時半。まず大林監督のピアノ演奏、伊勢さんのギターによる「なごり雪」の旋律に基づく即興演奏があり、トークに突入。そして映画の上映が終わったのが8時50分。それから1時間の休憩があり、その後約1時間の伊勢さんによるコンサートが行われ、終了したのが午後11時であった。

映画「なごり雪」には「ショムニ」などに出演し人気女優となった宝生舞のヌード・シーンがあり、この話題は先日同時期に「週刊現代」「週刊ポスト」に記事として取り上げられた。大林監督曰く
「あれは『宝生舞が脱いだ!』ではなく、何も着てないだけなんです(場内爆笑)。」
大林監督の映画「あした」でデビューした彼女は今回脇役にもかかわらず「大林映画に恩返しがしたい」とひとり大分県臼杵市まで足を運び、映画に参加した。撮影中に書いていた絵の題名を監督に聞かれて彼女は<泣く前>ですと答え、ひっそりと微笑んだという。そんな彼女を思い遣り、大林監督は<泣く前>という詩を書いてそれに伊勢さんがメロディを付け新曲が生まれた。そのお披露目も今回のコンサートであった。筆者は今まで宝生舞のファンでは決してなかったが、今回の彼女の男気というかその心意気に心底惚れたゼ。

しかし今回特筆すべきはなんといってもヒロインを演じた須藤温子ちゃんだろう。もう無茶苦茶、可愛い!きりりと背筋が伸び、美しい日本語を喋る古典的美少女である。筆者は劇場公開された大林映画を全て観てきたが、彼女は歴代の大林ヒロインの中でも間違いなくトップ・クラスに属するだろう。もう映画を観た男性諸氏がメロメロになってノック・ダウンされるのは間違いなし。特に彼女が演じる<雪子>が暗い夜空を見上げ、雪が降るのを希う横顔のショットが魂が震えるほど美しかった。この奇跡のようなワン・カットの為だけでも「なごり雪」は観る価値がある。

映画の終盤、主人公の祐作と友人・水田の別れの場面で、号泣する水田を見ながら
「ああ、ここにヒロインの雪子が不在であるのがなんと物足りないことか!やはりこの映画の最後には絶対に雪子が登場しないと納得がいかない。」
という想いがあり、それをまるで予期していたかのように主題歌「なごり雪」の流れるエンド・ロールにおいて、雪子が再び登場しカメラの向かって歩み寄ってきて微笑むアップのカットを見た瞬間「あっ!」と唸った。これはまるであの「時をかける少女」の伝説的カーテンコールそっくりではないか!!そこで須藤温子ちゃんと原田知世の面影が重なり合い、大林恭子プロデューサーが掲げた<『転校生』の初心に還る>という製作意図の真の意味を理解した。

だからこそ、別の側面から眺めるとこれは正統的<アイドル映画>でもあり、そういう意味ではあの美少女チャン・ツィイーを愛情を込めてなめるように撮ったチャン・イーモウ監督の「初恋の来た道」と、この「なごり雪」はあたかも姉妹のような関係にあるのである。「初恋の来た道」をこよなく愛する者たちよ、「なごり雪」もゆめゆめ見逃すことなかれ。

「なごり雪」という唄が生まれて28年。その高度経済成長期に拝金主義に走った日本人が見失ってしまった心、そしてその間に破壊し尽くされ荒廃した日本の国土、そして日本語。かつて美しかった日本、そして日本映画が誇らしく保有していたものがこの映画の中に息づいている。これは古里自慢の映画である。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]