2002年05月08日(水) |
退屈な<アザーズ>より、断然クレヨンしんちゃん。 |
昨年公開され、雑誌「映画秘宝」で見事に年間ベスト・ワンに選出された「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」は確かにとてつもない傑作であり、「どうせ子供向けのアニメでしょ。」と食わず嫌いでしたり顔をするオトナたちへ強烈なカウンター・パンチを鮮やかに放った。先日テレビ放送され、このエンピツでも多くの人が取り上げて好評を博したのは記憶に新しい。「オトナ帝国の逆襲」がキネマ旬報のベスト・テンに選出されなかったのは単に投票した映画評論家が無知で、この映画を観ていなかっただけの事に過ぎない。それは、まだ宮崎駿が名を馳せていなかった頃、不朽の名作「ルパン3世 カリオストロの城」がキネ旬で無視されたのと全く同様の現象であり、歴史の過ちは何度でも繰り返されるのである。僕はこの映画を絶賛することに全くやぶさかではないのだが、一方で1970年代を懐古し、あの時代への回帰を希求するそのノスタルジイに、「こんな作品を子どもたち向けに製作しても良いのだろうか?しんちゃんを狂言回しに脇にやって、自分の語りたい世界を自在に描くという方法論は、一寸ずるくないか?」と疑問に想ったのも確かである。
先日5月5日の子どもの日に、小学生たちで満員の映画館でシリーズ最新作「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」を観てきた。いやはや正しく天晴れ!またまた日本映画の名作の出現に快哉を叫びたい。これは「オトナ帝国の逆襲」を超える完成度。今度は本格時代劇である。細部のリアリティに長け、作者のこだわりが真っ直ぐに伝わってきた。スケール感も過不足ない。大人のノスタルジイは今回影をひそめ、ギャグも冴えて子供たちも大いに沸いていた。くっきりとしたヒロインの造型が鮮やかであり、まるで澄んだ青空のような爽やかな雰囲気が物語り全体に満ち溢れている。「カリオストロの城」の名台詞じゃないけれど、"なんて気持ちの良い連中だろう"。最後は不覚にもホロリと泣かされた。練りに練られたプロットの勝利であろう。「裏切り御免」という、黒澤映画「隠し砦の三悪人」からの台詞の引用もあり、大人の観客に対する目配りにも抜かりがない。クレヨンしんちゃんはアドレナリン、もとい、侮れない^^;)。残念なことに上映は5/10までだそうだ。さあ、映画館へ急げ!
一方、同じ日に観た話題作「アザーズ」には期待が大きかっただけに全くもって失望した。おすぎは「サイコ」を超えるスリラーの傑作、なんて絶賛しているがトンデモない。20世紀の偉大な遺産であるヒッチコック作品と比較してこの映画を論じるなんてナンセンスである。天国のヒッチが嘆くよ。それだけの作家性を僕はこの監督に感じない。むしろこの映画はロバート・ワイズ監督のゴシック・ホラーの名作「たたり」の模倣品としか想えない。僕は光と影のコントラストがより鮮やかという点に関しては文句なく「たたり」の方に軍配を上げたい。
(以下ネタバレあり。これからご覧になられる方は読まれないことをお勧めする。)
大体、シックス・センス並みの仕掛けがあると聞いて身構えていたら、何だ、結局アイディアはシックス・センスと全く同じ。だって自分が幽霊になったことに気が付かない主人公の話でしょ?しょーもない。こんな二番煎じ、途中で分かっちゃうよ。思わせ振りに延々と引っ張るほどのネタじゃないだろう。脚本・監督のアルハンドロ・アメナーバルはこのシナリオを「シックス・センス」が公開される前から温めていたと語っているそうだが、そんなみっともない言い訳するなよ。映画作家は完成した作品が全て。それのみで評価されて当然である。作品そのもので勝負しろよ。それに、死者が写っている写真のアイディアはキューブリックの「シャイニング」から拝借しているというのも明らかだし、この映画のどこに独自性があるの?全くもって時間の無駄だった。(「アザーズ」「たたり」「シャイニング」、この三者に共通しているのは<真の主人公は館そのもの>ということである。)
しかし、新進気鋭の世界的映画監督の作品よりも圧倒的にクレヨンしんちゃんの方が見応えがあるのだから、映画って本当に不思議なものだなぁ。しみじみ・・・
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