エンターテイメント日誌

2001年07月13日(金) <A.I.>の矛盾点を斬る!

前回の日記からの続き。今回は映画の核心部分に触れているので、「A.I.」をこれからご覧になろうという方はここから先、読まれないことをお勧めします。

映画の主人公、自意識を持った人工知能ロボット、デイビットは途中出会ったロボット、ジゴロ・ジョーの助けもあってマンハッタンまで辿り着くのだが、実はデイビットを造ったサイバトロニクス・ニュージャージー社のホビイ博士が影で操作して、そこまでデイビッドを導いていたことが分かる。ここで決定的なプロットの矛盾が生じてくるのだが、ジゴロ・ジョーが最初からホビイ博士の意思で行動していたというのなら、彼が無実の殺人罪で警察に追われ、その過程でデイビッドに出会ったというエピソードは一体何だったのだ!?余りにも辻褄が合わないではないか。

潜水艇で水没したコニイ・アイランドの青の妖精に漸く巡り会ったデイビッドは本当の人間になれるよう妖精に祈り続ける。やがて氷河期が訪れ二千年後、彼は心優しいエイリアンに「発掘」され、再生されるのだが・・・
氷河期が直ぐにやってきたとしても海水が全て凍り付くには相当な時間が掛かるだろう。百歩譲って仮に最速百年で凍結したとしようか。デイビッドやテディが錆びなかったのはまあ未来ロボットということで大目に見るとして(^^;、木造にしか見えない青の妖精像が腐らず、塗られたペンキも退色せず長期間水没していたというのは余りにも奇妙なことだと想う。

エイリアンはテディが持っていた髪の毛(化石でもないのによく二千年も朽ち果てなかったものだ)からデイビッドの「お母さん」のクローン再生をしてくれる。しかしエイリアンの技術を持ってしてもクローン再生された人間の生命は二十四時間しか持たない。デイビッドはその束の間のひとときを初めて本当の子供のように「お母さん」と過ごす・・・皮肉なことに所詮代用品の「子供」に過ぎなかったデイビットは結局、やはり代用品であるクローン人間の「母親」でしかその心の傷を癒されないのである。
ちょっとした科学的知識があれば明白なことだが、クローンといっても、いきなり成人になるわけではない。胎児、乳児…という風に成長の過程を辿らなければならないはずである。だから「お母さん」の年齢にまで辿り着くためには二十数年掛かるのである。これは先の述べた「クローン人間の寿命は二十四時間」ということと明らかな齟齬を来している。それから当然のことだが遺伝子には言語の情報は組み込まれていない。言葉や記憶は生まれて以降、人間が自らの経験で獲得していくものである。では「お母さん」に言語やデイビッドとの記憶を教育(インプット)したのは誰なんだ?エイリアン!?これまた奇妙な話である。

「A.I.」はSFであり、いってみればおとぎ話(それも、ある種絶望的な)である。固いことを言うなという声も聞こえてきそうだ。確かに映画は花も実もある絵空事。しかし、やはり「虚構の中のリアリティ」というのも必要不可欠なものではなかろうか。架空の世界にかりそめに遊ぶとしても、そのひとときだけは上手に騙して欲しい。それが上質なエンターテイメントというものだろう。その点「A.I.」の脚本は矛盾だらけであり、スキルに欠けると想うのだ。

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