東京の片隅から
目次きのうあした


2019年10月16日(水) なつと茜

「なつぞら」については以前少し書いた。
出産を経て働き続ける主人公「なつ」と対比するようなキャラクターとして、出産で仕事を辞めて家庭に入る「茜」という元同僚がいる。朝ドラの視聴者には「茜」のほうが受けるらしかった。(なんせ見た目も可愛らしい)視聴者のメインは、女性は結婚したら家庭に入るのが良しとされていた世代だ。「茜」を肯定しなければ自分の人生を否定することになる。そういう気持ちがあって、過剰に「なつ」を非難する論調になっていたのだろうと思う。

で、ノーベル賞の季節になると思い出すことがある。
何年か前の受賞者夫人のことだ。大学の同級生だったというその夫人もコメントを求められたりしていて、ノーベル賞に関係のない二人のなれそめとか話させられていたのだが、レポーターが「内助の功」を強調する方向に話を持っていこうとしているところ、夫人が「私は研究を続けたかったんですけど」と言った。前後の話は全く覚えていないし、何なら受賞者が誰なのかも覚えていない私だが、その一言だけは強烈に覚えている。冗談めかした口調ではなかった。
あの世代で四年制大学、しかも理系、ひょっとしたら大学院に進む人だから並外れて優秀なわけで、夫の研究生活を優先して自分はいろいろあきらめて、そのことがずっと心にあるんだろうなぁ。その葛藤を抱えたまま数十年来た、彼女の心の苦しさを思うのである。
彼女は「茜」ではあったけど、心の中は「なつ」だったのではないかと思う。


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