東京の片隅から
目次きのうあした


2015年08月03日(月) 「ピスタチオ」

梨木香歩「ピスタチオ」読了。
以前から彼女の作品に登場する水(不快ではない湿度)と鳥とことばが、この作品でも軸となる。
いろいろな話が最後一つに収斂する。その様は川のよう。タイトルの意味も最後に知らされる。
アフリカの環境の変化や内戦についても触れられるが、あくまでそれは脇役というかシチュエーションのパーツに過ぎず、主となるのは主人公の(心の)旅。

読んで思うのは、不思議な匿名性。
主人公の棚という名前はペンネームだし、彼女の容姿についても描かれない。会社勤めをして辞めて、アフリカに行って帰ってきて、犬を飼い始めてそれが11歳。そういう情報からおそらく40歳前後なのだろうとは思うけど、それはあくまで読み手の想像で、髪が長いのか短いのか(個人的にはボブかそれ以上短いイメージ)、どういう嗜好があるのか(酒とコーヒー・ハーブティーは飲むらしい)、ほとんど描かれない。受容的なイメージはあるが受け身ではない。
実際問題そういったことは話の筋にとっては関係係ないのだが、女性を主人公とする物語でここまで徹底して人となりが排除されるのも珍しいなと思う。それは彼女の愛犬についても同じで、犬であること、メスであることは明白だが、犬種はついぞ明らかにされない。
そこそこ大きいのだとは思われる。

犬の手術の際、大学病院の対応に憤慨する場面がある。彼らが患者(畜)ではなく患部を見ていることに対する感情なのだが、自分の入院の時を思い出す。私もあそこではone of themで、かつ、レアケースのハイリスク患者だったから研修医がやたら話を聞きに来たな、当然のことだが、彼らは私個人ではなく私の症例に用があるのだな、そう思っていた。人も犬も同じなのか。


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