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2004年04月24日(土)
◆《マラーホフの贈り物》特別プロ、東京バレエ団『ジゼル』ヴィシニョーワ、マラーホフ、木村和夫、井脇幸江、遠藤千春

『ジゼル』全2幕、〔振付:ラヴロフスキー、改訂振付:ワシリエフ〕
18:30開演 東京文化会館 

ジゼル: ディアナ・ヴィシニョーワ
アルブレヒト: ウラジーミル・マラーホフ

ヒラリオン: 木村和夫 
バチルド姫: 井脇 幸江
クールラント公爵: 後藤晴雄
アルブレヒトの従者: 森田雅順
ジゼルの母: 橘静子

ペザントの踊り(パ・ド・ユイット): 
 高村順子―中島周、武田明子―大嶋正樹
 小出領子―古川 和則、長谷川智佳子―後藤和雄
ジゼルの友人(パ・ド・シス):
  大島由賀子、 福井ゆい、西村真由美、乾友子、高木綾、奈良春夏

ミルタ: 遠藤千春
ドゥ・ウィリ: 福井ゆい,、大島由賀子


〔指揮:アレクサンドル・ソトニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団〕




『ガラ公演』の前に、《特別プログラム》マラーホフ&ヴィシニョーワ『ジゼル』も観に行きました。
この二人ならではの『ジゼル』という意味でとても面白かったです。
マラーホフとヴィシニョーワという組み合わせは、去年のバレエ・フェスで見た限り、良さを活かしきれていない(マイナス面もあるような...)という印象だったのですけど、この公演はかなり満足できました。

たしかに個性的ではありましたが、『ジゼル』という作品を丁寧に掘り下げ、きちんと二人で役作りをし、表現しようという意思が大変伝わりました。
そして、相手を思いながら、謙虚に作品に取り組んだ姿勢も見て取れました。
このお二人、毎回興味をそそられ、ついつい見てしまうダンサー。特に大ファンという程でもなかったので、想像しづらいヴィシニョーワの『ジゼル』を観ようかどうしようか迷ったのですが、やっぱり行って良かったですね。

マラーホフのアルブレヒトは、ジゼルを物凄く愛していたというのが、舞台から溢れんばかりに伝わります。ちょっとした遊びのつもりで、村の可愛い娘にちょっかいを出したというものでは決してありません。
物語が進む中、常にジゼルから視線を逸らさず、その目線は愛しくてたまらない様子。
こんなに相手を思っているアルブレヒトは、かつて見たことが無いほどでした。

アルブレヒトに婚約者がいて、ジゼルがショックを受ける狂乱のシーンでも、演者によっては、顔を背けたり、ただ辛そうな演技をしたり、事の重大さに耐え切れず、サッサとその場から立ち去る人もありますが、心から愛していたんだとばかり激しく嘆き、かつ、好戦的にヒラリオンに向かっていく姿が、マラーホフにしては大変男らしかったように見えました。


ヴィシニョーワのジゼル。とても丁寧に演じていたのが印象的です。
所々で見せるレヴェランスも、ここまでやるかというほど強さを押し殺し、なよやかに演じること!
彼女の場合、自然さというものは、最初から最後まであまり無かったですし、過度に感じる部分もたしかにありましたが、逆にここまで作って演じたということに、役に対する思い入れの深さ、ジゼルを演じたいという意思の強さがすごく伝わってきました。

特に最近のヴィシニョーワの、「女」を濃く匂わせてしまう個性には、「ジゼル」というピュアなイメージの役は似合わないように思ってしまう。
ですが、研究と努力の結果?というのか、やわらかさと丁寧さを前面に押し出し、艶やかではあるけれど、相思相愛の恋人同士ぶりを見せ付けて、こういう役作りもアリなのかなという気分になりました。
一般的な役のイメージとは離れているようですけど、不思議に魅力的なジゼル像
少々、アルブレヒトに全面的に頼り切って、甘―いジゼルだなぁとも感じましたが...。

踊りも、“ジゼルらしさ”の役作りか、1幕ではあまり脚を高く上げ過ぎなかったり、色々配慮していたように思います。この点など、先日見たザハロワより良く考えて踊っている印象でした。
マラーホフともタイミング等、きちんと合っていましたよ。

2幕では、ウィリの透明感より、どうしても艶やかさが勝り、いきいきとした生命感を感じてしまいました。
軽やかさとか幻想的な雰囲気を醸し出すというより、恋愛の延長上にある生身の切ない男女間の話のように、濃く甘い世界に見えました。

全編にわたって感じたドラマは、深く愛し合っていた2人が、恋の絶頂期の時に突然起こってしまった不幸。最初から最後まで、ずっと思いあっている恋人達という感じでしょうか。
もう、愛の世界。(書いていて恥ずかしいけどw)


ところで今回、1幕の、ペザントの踊りがワシリエフ版の「パ・ド・ユイット」なっていました。
どうやらこの部分だけ、昨年の世界バレエ・フェスティバルの時から改訂したらしいです。
以前は男女1組踊っている一般的なものでしたが、今回は、男女各4名、合計8人で踊り、より華やかな印象です。
東京バレエ団は、優れた踊り手が沢山おりますし、特に男性の力量はとても高い。しかし『ジゼル』はどうしても女性ばかり登場しますので、折角素晴らしい男性ダンサーを見せるには、良いヴァージョンになったと思います。
今回登場したダンサーは、どの方を見ても素敵。皆鮮やかに踊りきり、迫力もあって見ごたえがありました。

バチルド姫役の井脇さんは、高貴な雰囲気を醸しながら、優しげな印象。
海外のバレエ団などでこの役を見ると、けっこうツンとした冷たげな演技をする方が多いように感じていましたが、井脇さんの演技はとても好ましかったです。
公爵家の姫として村民をいたわる姿とか、ジゼルに好意を持つ姿、好感を持てる人物設定のほうが、アルブレヒトとの関係上、深みのある話になるのではないでしょうか。細やかな役作りに感心です。


2幕で登場するミルタ役の遠藤さん。背が高くて立っているお姿は大変美しかった。恵まれたスタイルの方ですね。
ただ、踊りを見ていて、どうも安心できない不安定さを感じます。役に入り込んでいるというより、余裕がなく必死に踊っているのが何故か伝わってしまう。
この次には、ウィリの硬質な美しさや哀しさを見せてくれるよう期待します。


コール・ドは、1月に見た『白鳥〜』で不満に思っていた“足音”も、あまり気にならなくなり、綺麗な調和を見せてくれて良かったと思います。
毎回、東京バレエ団の『ジゼル』は、満足することが多くて、今回もたいへん楽しみました。
ゲストの力もありますが、団員の皆様の努力にも拍手を贈りたいです。