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2003年09月26日(金) ■ |
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◆ スペイン国立バレエ団【Bプロ】 『ムヘーレス』『エントレベラオ』『ボレロ』他O・ヒメネス、F・ベラスコ… (03/10/6up) |
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19:00開演、Bunkamuraオーチャードホール、
当日引き換えのチケットで、急遽観に行った公演。 席番号を見たら、最前列だったで、案の定サパテアードを打ち付ける足先が見づらかったのは残念でしたが、飛び散る汗か水?(男性は初めから髪の毛がビショビショだった)がライトに当たったときの輝きとか、熱気、リアルなパルマの音、迫力に満ちたダンサー達を間近で観ることが出来、臨場感を味わいました。
このバレエ団は今年で創設25周年とのことで、意外に新しかったと驚いたのですが、日本にもかなり頻繁に来日して公演を行っていますね。 私は、95年の来日公演の時、初めて足を運び、今回観るのはそれ以来ということになります。 重たい内容の『メデア』とか、お馴染みの『ボレロ』を見たはずでしたが、記憶は所々といった感じです。
ところで、私はいつも公演プログラムはなるべく購入するようにしておりますが、このバレエ団のパンフ写真は、驚くほど“濃い”面々のオンパレードでした。 ダンサーのプロフィール写真のポーズといい、力の入った表情の“その気ぶり”は圧巻! 皆こちらをにらんでる…(笑)
会場の雰囲気は熱気に満ち、観客の年齢層はとても幅広かったです。 毎回楽しみにしてらっしゃる方も、新作が多いので興味深くご覧になれるのではないでしょうか。
◆『ムヘーレス』 Mujeres 〔日本初演〕 ダンサー: ペネロペ・サンチェス、 サラ・アルコン、 クリスティーナ・ゴメス、 エスメラルダ・グティエレス、 タマラ・ロペス、 アンパロ・ルイス
「ムヘーレス」とは女性たちという意味だといいます。 “女性”の感受性や強靭さetc…それらに着想を得てエルビラ・アンドレスが創作したものです。 6人の女性ダンサーによる現代的な作品に仕上がっていました。 衣装はグレーのシンプルなもので、それぞれ微妙に形が違っていすが、全員女性の身体のラインを描いたようなデザインは共通しています。
ピアノ等の繊細な音にのせ、民族的な踊りではなく、バレエに近い動きを多く使った、意欲的な作品でした。 はじめはまるで、青い炎が立ち上るような雰囲気。 目に映るのは、音の“間”を意識した静かな世界ですが、実は大変な情熱と揺るぎのない意思の強さを感じました。 リズムを刻むというより、やはり“音と音の間”が際立つ作品ですので、カスタネットを打つ時も完璧な正確さを要求されるように思います。
モダン・バレエを観たときのような集中力を、自分でも感じる作品。 全体的には段々と盛り上がって面白かったです。 ダンサーたちの表情も踊りの一部だなぁと感じました。
◆『エントレベラオ』(ファルーカ) Entreverao (Farruca) 〔日本初演〕 ダンサー: オスカル・ヒメネス
いやもう、この踊りを観る事ができたというだけで、この公演に足を運んだ甲斐があったというほど、素晴らしい踊りを堪能できました。 男性ソロの作品ですが、この踊りを踊ったオスカル・ヒメネス氏の力量とパーソナリティに観客がのみこまれたという感じです。
強烈なサパテアードの細かなリズム、目を瞠るほどキレのよいブエルタ(ターン)、そういった技術もさることながら、哀愁を秘めたような彼の醸し出す雰囲気が独特で、激しい踊りの中で、苦悩、孤独、情熱、思いの全てを爆発させ、観る者を彼の世界に引き込んでしまいます。 雰囲気がスペインのルジマートフという感じかな。 兎に角、上手とかそういうレベルの踊りではなく、観客はさらけ出された心の内を見てしまった感覚に陥るというか、凄まじい熱情や苦しみを、踊りという表現を通してズンズン伝わってくるというか、本当に見事でした。
ヒメネス氏は、95年来日公演のパンフレットを見ると、そのときはファースト・ソリストをされていて、今回はプリンシパルとして踊られています。 ですがこの間、このバレエ団を離れていたり、再び再入団されていたりと様々な舞踊団で経験を高めていたようですので、より深みや味わいが増したのではないでしょうか。 また、歌とギター等による生演奏も、スペインの世界に誘ってくれましたし、大変素晴らしい踊りの余韻が長く続きました。
◆『タラント』 Trant 〔日本初演〕 ダンサー: エステル・フラド、 クリステイアン・ロサノ
「タラント」は深い“鉱山のカンテ(歌)”に由来しているとのこと。 しかし今回のこの作品は、惹き付けられ合う男女の世界を、様々な場面を通してストーリーも感じられるように表現した作品になっていました。 女性のエステル・フラドはプリンシパル・ダンサー、相対するクリステイアン・ロサノは、コール・ド・バレエという階級の違いはありますが、抜擢にみあう活躍をみせていたと思います。 情熱的な男女の心の葛藤や熱情を表現するのに、スペイン舞踊というのは大変適していると改めて思いました。 心の高ぶりを全身で伝える力にズッシリ感がありますね。 それと、大きな渦巻き模様のフリルが付いた女性の衣装が素敵で個人的にとても気に入りました。
◆『ボレロ』 Bolero ダンサー: フランシスコ・ベラスコ、 ペネロペ・サンチェス アスセナ・ウイドブロ、 タマラ・ロペス、 アンパロ・ルイス、 シルビア・デ・ラ・ロサ、他…
日本公演では必ず踊られるおなじみのラヴェル作曲の「ボレロ」。 単純なあのメロディ、壮大なクレッシェンドと共に色彩が増えていく面白さがありますが、初見感覚で拝見しました。(前回の印象が、鏡の美術しか残らなかったので)
始まったときは音が小さかったのよくわかりませんでしたが、暗めの照明に浮かび上がった大勢の男性によるパートは、おぉ〜という壮麗感があります。 人数の多い部分は、足でリズムを合わせるのも大変ですね。
舞台上には回転ドアの役目もはたすアール・デコ風の鏡のセットが3つおいてあります。 女性の衣装はローマ風のような、たっぷり生地をとった胸元と、多くドレープが入った腰周りと裾部分が優美です。男性も袖がゆったりしたデザインでした。
次々と繰り出される色艶やかなダンサーたち、ソロで見せたり、ペア、或いは大勢のパートと鏡のセットを使って現れては消える、まさにミラージュといった感じ…。 幻?夢?現実?そんなイメージでしょうか。 群舞のサパテアードでは音楽が聞こえなくなるときもありますが、その群舞が見所といったところ…。 作られた当時、民族的な踊りというイメージを取り去って新たなスペイン舞踊の世界を作り上げた、記念碑的な作品だったのではないでしょうか。
◆『イルシオネス・F.M.』 Ilusiones F.M. 〔日本初演〕 ダンサー: クリスティーナ・ゴメス、 マリアノ・ベルナル、 エステル・フラド、 ダビッド・ガルシア、 クリステイアン・ロサノ、他...
大変明るく、ちょっと不思議で楽しい作品。 こういう作品もあるのだなぁと驚きも感じました。
ラジオから流れる王子の結婚式の放送。 レストラン働いている“彼女”はうたた寝の中、まるでシンデレラの物語のようにあこがれの王子の花嫁になる夢をみる。 目覚めた後も、夢を引きずるかのように、レストラン従業員達と共に、男は王子に、女は王妃になったつもりでラジオが伝える式典を自分に置き換えて、気持ちよく踊りまくる。 宴が終わると皆が現実の世界に戻っていきます。
お店のキッチンの模様とラジオが伝える宮殿での結婚式がシンクロするような面白い作品に仕上がっていました。 ギター、パーカッション、カンテを歌う人たちまで舞台ではレストランの従業員役を演じていて、ダンサーは、ウエイトレス、給仕などの衣装です。 フラメンコを踊るのにミニスカートであったり、舞台上はキッチンと食事テーブルがあったりと生活観のある風景。(でも彼らはこの時間、空想の中にいる)
ラジオから流れる曲ということで、踊る音楽も様々。 シャルパンティエやラヴェル等のクラシック音楽から、ジャズ音楽とかジョン・レノンの「イマジン」を使ったりと幅広いところから選んでいます。(それでも振り付けはやはりスパニッシュ) あんなに表情に喜びを湛えて踊るフラメンコはあまり見たことがなかったので新鮮に感じました。 爽やかでキュートな作品です。
【最後に】
今公演を観て感じた事は、演目によるせいかもしれませんが、以前観た時よりも民族的なフラメンコいうダンスのエッセンスは残しつつも、よりモダンで自由な発想に移行しており、“バレエ”の色が強くなったように思いました。 ですが、とても人間的で、色気も強く感じられますし、内なる心情を伝える“踊り”としてはストレートに観客に伝わります。 男女問わず、誰にでも受け入れやすい面白さもありました。 今回、チャレンジのような意欲的なプログラムも増えているようですし、バレエ団の未来も益々楽しみですね。
“スペイン”という国のにおいや、喜怒哀楽の表現のくっきりとした強さが、なんとも魅力的。 よくスペイン人は“生と死”について身近に意識していると聞きますが、“今を生きる”という爆発力には非常に惹かれるものがありますね。 観た後は、活力が沸いてきますよ!
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