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どうもストーリー紹介といっても、ついつい合戦場面ばかり並べてしまったので、ここまでおつきあいくださった方は、『平家物語』は殺伐とした戦争の話、みたいな印象を持たれてしまわれたかもしれません。
大きな合戦を並べておけば歴史の流れに沿って説明しやすいという理由と、個人的にラブストーリーより戦闘シーンが好きという妙な傾向のせいでこんなふうになってしまいました。
実際には『平家物語』本編には、貴族文化が武家文化に取って代わられる最期の輝きの雅びさがあり、優美な女人にもお薦めの、美しくもの哀しい場面が多いですので、どうか敬遠されませんよう。
岩波文庫版は語り本系覚一本高野本というテキストを底本にしています。
なにしろモトが文章ではなくて語りで伝えられた文学ですから、いろいろ微妙に違うバージョンがあって、前回の、六代が斬られた所で終る本もあるそうですが、この本のラストは大原寂光院で静かに平家一門の菩提を弔う建礼門院が主人公。
ある日、後白河法皇が大原へ御幸します。
女院の住まいする庵はあまりにも侘びしく、法皇の突然の来訪に女院は呆然。
『平家』本文にはあまり下世話な噂は書かれていませんが、高倉帝が亡くなったとき、徳子を後白河法皇に入内させるという話があったのだそうです。普段自分の意見を言わない徳子が拒否したので、周りがびっくりして沙汰止みになったそうで。ちなみに大原の建礼門院、二十九歳。
でもまあ、実際にはそんな場合ではありません。
これまでの波乱の人生を語って二人涙涙です。
女院は人の一生で六道を経験した、と語ります。
地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天道。
天国から地獄を全部味わった、というところでしょうか。
それで思ったのですが、宮尾登美子が女性メインの視点で平家を書こうと思ったのは、この女院の「六道の沙汰」がヒントではないでしょうか。
男性はみんな途中で死んでしまうから、平家の全てを語る事は出来ない。本編の中に次々と登場する女性達は、皆変転する運命に翻弄されながらも、男性達と違ってしっかりと生き延びています。
夫の後追い心中をしたのは絶世の美女・小宰相ただ一人、そういう事は珍しかったので物語になったのでしょうね。
建礼門院の傍らの尼は、南都の僧に仏敵として処刑された夫・重衡の菩提を弔う大納言佐・輔子。ドラマでのキャストは、今話題の中心の戸田奈穂。
やがて女院は病に伏し、念仏を唱えながら臨終を迎えます。
みな往生の素懐をとげけるとぞ聞こえし。
このパート、灌頂巻は仏教の儀式「灌頂」になぞらえた秘伝の曲という意味だそうです。
ここまで語り終えれば、平家一門の魂は、極楽往生を遂げる事が出来るのだと。
ですから。大雑把ではありますが、私も最後まで語らせていただきました。(ナルシア)
『平家物語(一)〜(四)』 校注:梶原正昭・山下宏明 / 岩波文庫
2003年12月01日(月) 『羊飼いとその恋人』
2000年12月01日(金) 『よくわかる広告業界』
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管理者:お天気猫や
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