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ふっと。 『たったひとつの冴えたやりかた』のことが頭に浮かびました。 読んだのは、一年近く前でしょうか。 初めて読んだ、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの本でしたが、 無防備なまま、川原由美子さんの描いた可愛い女の子の表紙の本を 手に取り、そういう本だと思い、読み始めたのでした。 たとえば、『星の海のミッキー』とか。 (よく見返してみると、表紙の女の子は悲しそうな顔でした。)
私はそもそも、SF、特にシリアスなものは苦手で、 もし、ティプトリーがどんなタイプの作家か知っていたら、 手には取らなかったと思います。 ただ、時に勘違いが、思いも寄らぬ新しい扉を開け、 思いもよらず、自分自身の選択肢が広がっていくこともあります。 今でも、ティプトリーの重たさは苦手だけれど、 読んでよかったという、充足感がありました。
『たったひとつの冴えたやりかた』のことを思い出したのは、 今日の乾いたお天気、今感じている、このからりとした空虚が、 あの時感じた、乾いた悲しみを呼び起こしたからです。 悲しみにはいろいろあるのですが、 納得し諦めたあとの悲しみは、せつないけれどからりと乾いていました。
16歳の誕生日にプレゼントされたスペースクーペで、 宇宙に飛び立った少女コーティー。 冷凍睡眠から目覚めると、頭の中にイーアというエイリアンが住みついている。 やがてすぐに意気投合した二人は、さらなる宇宙探検に乗り出すのだが。
ティプトリーを全く読んだことがなかったので、 表紙のイメージや、何ページか読んだだけでは、これがシリアスな物語だとは 思いもしませんでした。 まさか、コーティーが直面するトラブルが 「たったひとつの冴えたやりかた」でしか解決できないほどに、 少女の選んだ結論、その勇気が深刻なものだとは。 きっと何か、トラブル解決の手段があるはずだと、 気楽に読んでいたのでしたが…。
本書(原題:The Starry Rift)は、ストーリーが続いているわけではありませんが、表題作を含む、宇宙を舞台にした三連作です。(※<リフト>が3つの物語をつなぐ。) 「たったひとつの冴えたやりかた(The Only Neat Thing to Do)」 「グッドナイト、スイートハーツ(Good Night,Sweethearts)」 「衝突(Collision)」 面白かったと本を閉じてしまう前に、 どうしてそういう決断になるのだろう、 どうしてそうなってしまうのだろう、 それでいいのだろうか、 そんな風に、しばし、考えてしまいました。
でも、たとえばそれがどんなに悲しみをともなう結論であっても、 それが「たったひとつの冴えたやりかた」だったのです。
今ふっと。 壮絶で悲劇的な最期を遂げたジェイムズ・ティプトリー・ジュニアについても、 彼女の選び取った死は、「たったひとつの冴えたやりかた」だったのだと、 やっと、気づきました。 (シィアル)
『たったひとつの冴えたやりかた』 著者:ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / 訳:浅倉久志 / 出版社:ハヤカワ文庫
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管理者:お天気猫や
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