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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年10月12日(金) --

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『あべこべの日』

☆ファラダの半端じゃない奇天烈メルヘンの世界。

ハンス・ファラダのメルヘンは、 とにかく、半端ではなかった。

徹底的に小狡いねずみ。  
とことんせこい悪魔。  
何が何でも隠れなければ気が済まない少年。  
どうしようもなく不明瞭にしゃべる少年。  
果てしなく普通ではないあべこべの世界。

どれもこれもが、既成概念の枠を軽々と越えている。

これでもか、これでもかとばかりに奇妙で、 不思議に魅力的な、愛すべきファラダの世界。 ファラダの尽きることのない 自由な想像力には、心底驚かされる。

たとえば。 『あべこべの日』では、 タイトル通りすべてのものがあべこべになる。 あべこべになるとはいっても、 やはりそのあべこべぶりがフツーじゃない。 フツーじゃないから、あべこべの日なんだけれど。 けれどそれでも、ここまで「フツー」のタガを はずせるというのはすごい。

あべこべの日になると、 白馬は御者台に座って鞭をふるっています。 お父さんは、今まさに馬車に繋がれようとしているし、 馬車のパリッチュ伯母さんは後尾灯として ぶら下げられています。 猫のミーツィは、スプーンの代わりに引き出しにしまわれて、 銀のスプーンはミーツィの寝間着を着て猫のベッドで寝ています。(引用)

けれどこんなに奇妙なのに、 読み終わってみれば、正統派のメルヘン。 そういう印象が残るのはなぜだろう。 この奇妙さは、不条理の手前まで来ているのに、 どれもこれもが見事に、ハッピーエンドにおさまり、 ほのぼのとする。 それは、きっと、ファラダの市井の人々への まなざしがあたたかいからなのだろうと思う。

ファラダの人生は、少なくともその半生は、 決して、恵まれたものとは言えない。 人生を踏みはずしかけた彼を、引き戻し支えた理解者がいたので、 作家としてのファラダが誕生する。 とはいえ、その後も心身共にすり切れるほどの苦労が続くが、 その苦労もなかなか認められない。 けれど、その不遇の時代、恵まれない日々の生活が ファラダの弱き者へのあたたかいまなざしを育てたのだろう。 どの物語にも、 貧しき者、弱き者、小さき者への やさしさ、慈しみの心があふれている。

無限のイマジネーションで 登場する人物や設定は奇天烈だが、 すべてのストーリーの芯にあるものは「愛情」だ。 だから、どんなに突拍子もない物語でも 読む者の心をあたためるのだろう。 おもしろおかしく、あたたかな物語の数々。 ファラダの世界には、広々としたのびやかさを感じる。(シィアル)


『あべこべの日』 著者:ハンス・ファラダ / 出版社:ハヤカワ文庫(絶版)  
→ ※ 古書から探す 古書検索サーチエンジン スーパー源氏
追記;私もネット上の古本屋さんから、1000円近く出して買いました。    
決して安いとは思いませんが、この本が読めてよかったと思っています。

2000年10月12日(木) 『ハンニバル』(1)

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