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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年01月15日(月) --

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『アムステルダム』

かつて3人の主人公それぞれにとって 魅力的な恋人であったひとりの女性の葬儀から始まる物語。 3人とも老いを自覚し、 ロンドンを舞台に演じてきた ”ささやかとは言いがたい”人生の幕を いつどうやって降ろすのか、そんなことを 考える夜中の3時もある男たち。

私はロンドンの雰囲気は何度かの旅で ある程度理解できるし、アムステルダムのスキポールまで 主人公たちと同じくフライトを利用したこともある。 乗り継ぎだけなのでオランダの街は見ていない。 だから、この物語がめざす終着の場所アムステルダムは、 不思議に白くて実態がない。 読むにはうってつけの状態だった。

この本を楽しんで読んだ。 あまりにもイギリス的で、示唆的で、 破滅的なのに、気が滅入らないユーモア小説の伝統。 といってしまっては誤解されるだろうか。 前作までの作風とはかなり変化しているらしいが、 なにかとても、書き手としてふっきれたものを感じる。 何を書くかが決まれば、あとはどう書くか。 「どう書くかなんて、そいつの人生が決めるのさ、 じぶんでないものなんて、書けるわけがないだろう」 読み終わったあと、3人でありながら1人とも思える男たちが そう笑って、フルートグラスを「チン」と打ち合わせる。

もっと、廊下をつなげて部屋をひろげることもできる。 登場人物をふやして、食卓をにぎわせることも。 だけどそうしたら、忘れられる言葉もあるだろう。 恋人モリーが3人にとって、忘れられないファム・ファタルで あったように、マキューアンは言葉を削り凝縮することで 忘れられない作家になる。 マキューアンは、オクスフォードに住む作家は、 誰にも忘れて欲しくないのだ。 かすかな癖の残像まで、鮮明に。(マーズ)


『アムステルダム』 著者:イアン・マキューアン / 出版社:新潮社クレスト・ブックス

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