私の今の仕事は、オペレーターです。テレビやカタログ、新聞広告、折込チラシをご覧になったお客様からの受注をお受けする、インバウンド業務です。メーカーブランド、価格、扱い商品から90%はご年配の方からのご注文です。
1994年2月、永岡書店発行の「家庭医学大百科」によりますと85歳以上では3〜4人にひとりくらいは「アルツハイマー型老年痴呆」(当時は「認知症」と言うことばが無かったため)患者がいると記載されています。と言うことは、私どもにお電話を下さる方の中にも何らかの症状をお持ちの方がいる可能性が高いのです。
お電話を下さる方の中には明らかに「攻撃的」な方がいらっしゃいます。何がお気に召さないのか存知ませんが最初から怒り声です。
お電話番号を伺って検索しても情報がPCにありません。仕方か無いので、復唱して、確認を取らせていただくと「いつも注文をしているのに何を言ってるの!!」とまた怒鳴っていらっしゃいます。怒鳴りながら電話番号を仰るので余計に聞き取りにくいのですが、なんとか聞き出してこちらが復唱すると「その番号だ、間違いない!!」とまた怒鳴ります。5〜6回同じことを繰り返して結局、お名前で検索し直し、先方がご自分のお電話番号を間違えていらした事が判明しました。「お客様、申しわけございません。お客様のお電話番号は○○○ー×××ー△△△△ですね。」と確認をさせていただくと「電話なんて、いつも掛かってくるばっかりで、自分のうちの電話番号なんて知るか!!」と、また怒鳴っていらっしゃいます。電話番号をお聞きするだけでこの始末です。
カタログ記載の申し込み番号を伺って検索しても、やはり該当商品がありません。初めてのご注文のお客様はしばしば「1番の商品、ひとつ」というご注文の仕方をされますが、見開き2ページごとに1番の商品は存在し、カタログ、チラシあわせると1番の商品など何千種類とあり、とても見つけられるものでは有りません。そういう時は、ご覧のカタログやチラシの種類とご希望の商品名を伺い探し出すのですが、いつもご注文をされているのなら「注文番号」が必要なことは重々承知のはず。
○○○○ー×××××というご注文番号は最初の部分がカタログの番号になっているので、それに近い番号を入力して検索し、先方に「お客様がご希望の商品はこちらの申し込み番号の物ではございませんか?」と確認すると「もう!このカタログが白くってピカピカ光って見難いのよ!!」とまた怒鳴っていらっしゃいます。ご注文の数量を仰らないので「この商品は一点でよろしいですね。」と確認するだけで「決まってるじゃない!!」とまた怒鳴り声です。
お酒をご注文でそれが6本1セット販売でしたので「こちらも一式でよろしいですね。」と確認を差し上げたら「6本一緒に売ってるじゃない!!」と又怒鳴り声。酒類の販売は法律で未成年ではないことを確認することになっているので「お客様は未成年の方ではございませんね」と確認すると「75歳の人間におまえは何を聞くのか!!そんなことを確認されたことなど一度も無い!!」と怒鳴り声。
お支払方法がカード決済で「ご本人様、御名義のカードでいらっしゃいますね。」と確認したところで「主人のカードです!!今までそんなことを言われたことは無い!!おまえの名前を言え!!」と又怒鳴り声。「言え」と言われなくても「私○○がご注文を承りました。」とご注文の最後には必ず名乗ります。しかし、仕方ないので自分の名前を途中で名乗りました。名乗りながら「今年4月1日からの個人情報保護法で本人確認が必要になりました。申しわけございませんが、奥様のお名前を頂戴できますか。」と言ったところでまた怒鳴られました。「個人情報保護なら余計に個人の名前を言う必要は無い!!」とのことでした。だいたい、個人情報保護法が施行される前でも、カード名義本人以外の注文を受ける方が問題だと思うのですが、何とかなだめすかし、奥様のお名前を聞き出し「○○様ご用命」と特記を入力し、ご注文を聞き復唱し終えたところで「お前の名前は覚えた。覚悟しておけ!!」と捨て台詞を残して電話を切られました。最初からずっと怒鳴りっぱなしのあの方は明らかに正常者では無いと思います。そんな、客であると言う立場におごりたかぶり、明らかに病的な怒り方をする人にもひたすら謝罪し続けて電話をお受けする仕事。結構、精神的にきついものがあるので、人の入れ替わりが激しい仕事です。
しかしながら、私の場合、既に夜帯のアウトバウンドを経験済みですので、自ら注文を希望して電話を掛けて来られるインバウンドは一部の人が訴えるほど苦痛では有りません。
このような電話を受けた日に感じること。そんな人格異常者と同居のご家族、お疲れ様です。人が言うほどには苦痛では無いにしても、やはり、ああいう理屈の通らないことで怒鳴り続ける方と話をすることはとても疲れます。たかが15分程でとても不愉快な思いをしました。そんな日は「今日は運が悪かった」と諦めます。
そして、クレーマーと言う人種は、誰が応対しても多かれ少なかれ絡んで来るものです。それなのに、苦情になったら最後、上司から「どんな応対をしているの。反省しなさい」と叱られるのは私たちオペレーターです。
《追記 6月13日 11:41》
お客様が何故あんなに最初から怒っていらっしゃったのか少し考えてみました。日記を書いている時は、その方が少々認知症気味で性格が攻撃的になっていらっしゃるのだろうと理解していました。
けれど、よくよく考えてみたら、「本当はあのお客様は自分自身に腹を立てていらっしゃったのかもしれない。」という気になってきました。 自分の家の電話番号すらきちんと言えない。カタログ記載の申し込み番号もぼやけてよく見えない。そんな自分自身の老いに腹を立てていたのだと考えたら私の気持ちも少し楽になりました。
客商売。そんなお客様の怒りをいかに緩やかに受け止められるかがその人の真価が問われるところでしょう。顔色は声にも表れるそうです。果たして、最後まで笑声でいられたかどうか、いまいち私には自信が有りません。