私の実家には立派ないちじくの木が有って毎年たわわに実がなりました。
もぐと粘性で乳色の樹液が流れました。
私は毎年その実を食べるのが楽しみでしたが、近所のおせっかいなおばさんが「庭にいちじくを植えるのは、家相に良くない」と母に告げ、馬鹿正直にも母はそのおばはんの言うことを聞き入れ直ちに木を引っこ抜きました。
次の年から、庭にいちじくはなりませんでした。
毎年、いちじくを見ると、母に余計なことを吹き込んだおばはんと、その話をまともに聞いて木を処分した母のことを思い出します。
それから、もうひとつ思い出すのが子供の頃読んだイソップの話。
奴隷だったイソップがいちじくを盗み食いした濡れ衣を着せられたのですが、ある方法で自分の無実を証明する話です。
その本の中には、他にもイソップの移動の知恵も書いてありました。
奴隷として他所へ荷物を持って移動するする時に、イソップが皆が嫌がる一番重い荷物を選んだ話です。
けれど、それはとてもいい選択だったのです。
イソップが選んだのがパンの袋だったのですから。
最後の日に、空になった袋を肩に下げて歩くイソップの挿絵が忘れられません。
いちじくを見るとまだ小学生だった頃の出来事や読んだ本の内容が次から次へと蘇って来ます。