朝8時半に目を覚ましたぼくは、歯医者に電話をかけた。 「はい、○○歯科クリニックです」 「昨年の8月までそちらに通っていた者なんですが、その時につけた冠が外れたんですよ。今日治療できますか?」 「はい、大丈夫ですけど、何時がよろしいでしょうか?」 「いつでもいいんですか?」 「はい」 「じゃあ、9時半からお願いします」 「えーと、お名前は?」 「ああ、しろげしんたといいます」 「はい、わかりました。では9時半ということで」 「よろしくお願いsます」
歯医者は9時から開いているので、その時間に行ってもよかったのだが、今日は嫁ブーが仕事なので送って行かなければならなかった。 それから帰ったら、だいたい9時半になる。
ぼくはさっそく身支度をした。 以前10ヶ月も通ったところだから、これといって飾らなくてもいいのだが、それでも髭だけは剃っておいた。 一昨日から伸びっぱなしなのだ。 口の中を触るわけだから、当然あごや鼻の下に手を当てることになるだろう。 その時チクチクさせるのも悪いと思ったわけである。
とくに注意したのは歯磨きである。 歯医者に行かなくなってから、身を入れて歯を磨くことが少なくなっていたのだ。 もし歯垢などがたまっていたら、歯の磨き方の指導を受けなければならない。 そうなると、時間がかかってしまう。 ということなので、歯磨きだけは念入りにやった。
さて、身支度をすませてから、嫁ブーを送っていき、歯医者には予定通り9時半についた。 中に入ると、そこに見慣れた待合室があった。 そこに置いてある本も、あの頃と変わらない。 その中の一冊をとり出し読んでいると、8月に終わった治療がいまだに続いているような気持ちになった。
「しろげしんたさーん」 「はい」 「お入りください」
いよいよである。 診察台に座っていると、先生がやってきた。 そして「開けてください」と言った。 ぼくはその言葉を聞くと、条件反射のように口を開いた。 ここでも8月がそのまま続いていたわけだ。
先生は手慣れた手つきで、ぼくの口の中を調べていった。 「他に異常はないですね。で、この冠、いつ外れましたか?」 「昨日の夜です」 「じゃあ、この冠をそのままつけておきますね。今日はそれをつけて終わりにして、あと2日ばかり来てもらいます」 「えっ?」 「前の治療から半年経っていますので、歯石とかを取っておかないとね」 半年点検といったところだろうか。 まあ、歯をいじられるわけでもないからと、躊躇せずに次の治療の予約をしたのだった。
|