一週間ほど前のこと、倉庫で作業していると、倉庫の上にある排煙窓のほうから「ガサガサ、ガサガサ」という音がした。 何だろうと見上げてみると、そこには大きなトンボがいた。 オニヤンマである。 倉庫に迷い込んできたのだ。
うちの店の倉庫は、普段開きっぱなしになっているので、よく昆虫が迷い込んでくる。 一番多いのが蝶や蛾で、次に多いのがトンボである。 彼らが倉庫で飛んでいる姿はあまり見かけないのだが、倉庫の2階なんかに行くとけっこう死骸が転がっている。 カブトムシが入ってくることもある。 作業中に足下で「プチ」という音がしたので、何だろうと見てみると、そこで雌のカブトムシがひっくり返ってもがいていた。
さて、冒頭のオニヤンマだが、窓で何をやっていたのかというと、窓から外に出ようとしていたのだ。 しかし窓は閉まっているから出られない。 だけどトンボは諦めない。 何度も何度も窓から出ようとして、窓にぶち当たっていく。 来た道を戻って行けば難なく出られるものを、わざわざ閉まっている窓に体当たりしなくてもよさそうなものである。 が、そこが昆虫の浅はかさである。 倉庫の2階で見た昆虫たちの死骸も、こうやって窓に体当たりしながら体力を消耗して死んでいったのだろう。
それを思うと忍びない。 そこでぼくは、そのトンボを逃がしてやろうと思った。 とはいえ、トンボのいる排煙窓は、ほとんど天上近くに位置している。 そこにある棚を上らなければ、そこには到達しないのだ。 ぼくはどうしようかと思った。 と、そこにタイミングよく脚立があった。 ちょっと低い脚立だったが、これで棚の中段までは上れる。 あとは、棚をよじ上ればいいのだ。
さっそくぼくは、脚立を利用して、棚の上に上った。 棚はスチール製だったが、荷物を積んでないせいか不安定である。 ぼくが棚の上に立ちあがると、棚はグラグラしていた。 しかも棚板が弱いせいで、歩くとバリバリという音がする。 早くトンボを捕まえて棚から降りないと危ない。 そう思いながら、トンボに近づいてみると、トンボはかなり体力を使ったみたいでフラフラしており、ぼくが近づいても逃げようとしない。
トンボには申し訳ないが、これはぼくにとってはラッキーである。 そのために逃げらる心配がないからだ。 もし元気だったら、逃げられてしまう。 ぼくはけっこうムキになる性格だから、もし捕まらないと、しつこくトンボを追い回すだろう。 そうなると死活問題である。 不安定な棚ゆえに、上で暴れたりなんかすると倒れるかもしれないのだ。
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