| 2005年02月26日(土) |
あなたがほしい(上) |
何かの拍子に、今までまったく忘れていた、どうでもいいようなことを思い出すことがある。 今朝、いつものように、会社に行くなりトイレに駆け込んだ。 その時、トイレのドアの閉まる「ギー」という音を聴いて、ある歌を思い出した。 高橋真梨子の『for you・・・』である。 「お、このフレーズ、『あなたがほしい…』に似とるわい」と思ったわけである。 思い出したことというのは、その『for you・・・』にまつわる話だった。
前の会社にいた頃、ぼくは月曜日になると、いつも行きつけのスナックに飲みに行っていた。 なぜ月曜日かというと、翌日の火曜日が休みだったからだ。 そこで弾き語りをしたり、ママさんや他のお客さんとおしゃべりをしたりして楽しんでいた。
ある日、いつものように他のお客さんと談笑している時だった。 バタッとドアの開く音がした。 見ると女性客が三人立っていた。 どの人も、ぼくよりは確実に10歳以上年が上だった。 当時ぼくは30代の前半だったから、その人たちは40代だったのだろう。 三人のうち一人は、時々見かける顔だったが、あとの二人は初めて見る顔だった。
三人は店の中を見回すと、「今日はやめとこうか」と言って店を出て行った。 それを見てママさんは、三人を追いかけていった。 10分ほどして、ママさんは三人を連れて戻ってきた。 「今日のお客さんは、心許せる人たちばかりだから、心配せんでいいよ。さあお入り」 そう言って、ママさんはカウンターの隅に席を設けた。
ぼくたちは、三人を気にせずに、また談笑を始めた。 一方の三人はというと、ぼくたちに聴かれまいとして、小声で話をしている。 ぼくは「三人とも暗い顔をして、いったい何を話しているんだろう」と思ったが、盗み聞きするのも悪いと思って、なるべくそちらに意識を持っていかないように心がけていた。 ところが、席が近かったせいもあり、聴くつもりがなくても、時折その会話が聞こえてくる。 「・・・、だから、・・・、ご主人・・・、まずいやろ?」 「でも、・・・、本当に、・・・、諦めきれない」 「いや、・・・、間違って、・・よ」 と、延々この調子だった。
その会話の断片を繋いでみると、どうも三人のうちの一人が不倫しているらしい。 あとの二人は、相談に乗っているようだ。 『いったい誰が不倫してるんだろう?』 と、ぼくは横目で三人を見た。 時々見かける人は、相談に乗っているようだから、あとの二人のうちの一人がそうなのだろう。 その二人のうち一人は、どこでもいるような主婦だった。 服装も地味で、『この人は、まずないだろう』というようなタイプだった。 もう一人は、遊び慣れしたような感じのする人で、服装なんかもけっこう派手だった。 ということで、ぼくは『不倫女は、きっとあの派手女だろう』と思っていた。
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