「ねえ、この家、何かおるような気がせん?」 「おる? 何がおるんか? ネズミか? イタチか? ヘビか?」 「いや、そんなんじゃなくて…」 「そんなんじゃない? じゃあ、何か?」 「うん、幽霊とか…」 「幽霊? 何でこんなところにおるんか。ここはマンションの6階ぞ」 「そうよねえ。6階に幽霊なんかおらんよねえ」 「おう。幽霊っちゃ、地縛霊がほとんどなんやろ。6階は元々空間やないか。そこで人が死んだなんて考えにくい」 「そうよねえ」
「でも、何でそう思うんか?」 「いや、時々、寝ている時に、何かが窓から出て行くような気配があるんよねえ…」 「寝ている時っちゃ、何時頃か?」 「夜中やけど…。3時頃かねえ…」 「夜中の3時か」 「うん」 「それはおれやの」 「えっ?」 「それはおれっちゃ」 「はっ?」 「いつも、その時間になったら幽体離脱しよるけのう」 「幽体離脱したら、窓から出ると?」 「おう。体から抜け出した後に、窓から出ることあるのう」 「どこに行くと?」 「どこに行くかは決まってない。いつも意思とは違う方向に飛んで行くけ。この間行った所は、どこかの墓地やった」 「気味悪いねえ」 「墓地がか?」 「いや、幽体離脱とか」 「そんなことはない。誰でも知らんうちに幽体離脱しよると言うし」 「そういえば、そう聞くねえ」
「この間、寝とる時に、何かがおれの上をまたいで行ったけど、あれはきっとお前やろう」 「そうなん?」 「おう、間違いない」 「でも、そんな記憶ないけど」 「そんなもんなんよ。幽体離脱を自覚する人もおれば、せん人もおる、と言うことたい」 「そういうことか。でも、心配して損した。あれはしんちゃんやったんか」 「そういうこと」
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