2003年07月26日(土) |
ねずみ通り15番地 前編 |
『ねずみ通り15番地』 ― 部屋の灯りが消える おれたちの世界が始まる
小さな穴から抜け出して 大きな箱を横切って 台所の街まで急ぐんだ 寝坊したらお終いだ もうご馳走は残ってない 今日一日は飯抜きだ ここはおれたちの天国 ねずみ通り15番地
ところでメリーはおれの生きがい みんなが彼女を狙っている 彼女の家は戸棚の向こう 犬の遠吠えが激しくなると そろそろメリーのお出ましだ みんな彼女のご機嫌をとる ここはおれたちの天国 ねずみ通り15番地
ホントは誰もメリーを愛してないんだ ただ、彼女と一発やりたいだけ。
― でも、おれの愛は本物だ ここはおれたちの天国 ねずみ通り15番地
我ながら、実に楽しい詩だと思っている。 高校3年の時に書いたものである。 ネズミに、プラトニックな自分の気持ちを託したのだ。 実はここにイメージするネズミは、ネズミであってネズミではない。 『トムとジェリー』のジェリーである。 そう、マンガ化されたネズミである。 ぼくの中にある本物のネズミ像は、こんなにかわいいものではない。
売場に立っている時だった。 携帯電話が鳴った。 誰からだろうと見てみると、その時間食事に行っている、うちの部署の子からだった。 「しんたさん、今、休憩室に、ネズミの赤ちゃんがいるんですよ」 「え、ネズミ? 早く外に捨てるか殺すかせんと、後々大変なことになるぞ」 「それが、ここにいる人、誰も触れないんですよ」 「触れる奴なんかおらんやろ。箸かなんかでつまんで、外に捨てたらいいやろ」 「でも…、かわいいですよ」 「かわいいとか言うとる暇はないやろ」
要はぼくに退治してくれと言ってきたのだ。 ぼくはこれまで、スズメバチ、ムカデ、ゴキブリなど、人が嫌がる虫を退治したことがある。 また、益虫と言われるトンボや蜘蛛は、手づかみで外に逃がしたりしてきた。 店の中に迷い込んだ鳩にも、はたまた犬の糞にも、勇敢(?)に立ち向かってきた。 そういう実績を見込んで、ぼくに言ってきたのだろう。 しかし、そんなぼくにもだめなものがあるのだ。 その最たるものが、ネズミである。
小学6年のある日のこと。 学校から戻り、家の中に入った時だった。 突然、ガサッと言ういう音が聞こえた。 音のする方を見てみると、一匹の大きなネズミが走り回っていた。 ぼくが入ってくると、ネズミは立ち止まり、じっとこちらを凝視した。 そのとたん、ぼくは固まってしまった。 生まれて初めて見るネズミは、想像した以上に大きく、想像した以上に汚い。 「どうしよう?」という思考より、「怖い!」という感情が先に立った。 胸はドキドキ、足はワナワナしだした。 なすすべもなく、ぼくはしばらくそこに立ちつくしていた。 が、そのままでは何も出来ない。 そこで、ぼくは猫の鳴き真似をした。 ところが、ネズミは動じない。 何か物を投げようと思ったが、近くに何もなかった。 しかたなく、ぼくはネズミが去るのを待った。 ようやくネズミが動いたのは、それから10分ほど経ってからだった。 その後も、ぼくは震えが止まらなかった。
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