1970年4月、中学校入学。
「初恋」
いつのまにかの静けさがぼくに 淡い恋心を落としていった 思いもかけないことにように 君を好きになっていた
こんな気持ちは初めてだった 不意に吹き狂う小嵐が ぼくを包み込むように 日々を攻めつけた
今想い起こしてみると それももう古い昔話 今でも夢に出てくる、忘れたはずの 君の笑顔少しぼやけて
ぼくの初恋はいたずら好きの風が 落としていったおかしな夢 思いもかけないことのように 君を忘れていた
小学校入学のところで書き忘れたが、1年の時にぼくは初恋をした。 その子とはキスもしている。 でも、すぐに転校していった。 また3年の時、2度目の恋をしている。 ぼくはその子と結婚すると公言していた。 が、5年になると、その子を好きだったことも忘れた。 で、中学に至るのだが、思春期の恋というものは、それまでの「好き」というのとちょっと違っている。 『アルジャーノンに花束を』で、ハルがエリナ先生に抱いた恋心というのは、きっとぼくが中学時代に抱いた恋心と同じものだったに違いない。 彼の場合、知能と感情のバランスがとれずに苦しんだのだが、ぼくの場合は、成長と感情のバランスがとれなかったせいでかなり苦しんだ。 その人のことを思うと、なぜか胸が痛む。 そんなことは、小学生の頃の「好き」にはなかった。 ぼくの場合、小学生の頃の「好き」は、単にその人の存在が心地よかっただけである。 しかし、中学の恋は違う。 苦しいのだ。 苦しんで、苦しんで、苦しんで、さらに苦しんで、でも満たされない。 そんな悶々とした日々が3年間続いた。
それほど苦しんだ恋だったが、結末はあっけないものだった。 その後、彼女といっしょの高校に通うことになったのだが、高校に入学した翌日、ぼくは、その後のぼくの人生を変える人と出会ってしまう。 中学入学時の出会いから、よく彼女と口げんかをしていたことや、いつも彼女を目で追っていたことや、周りから「しんた、お前あいつのことが好きなんやろ」とからかわれたことが、一瞬にして吹き飛んだ。 中学時代の恋は、その時点で終わってしまった。 たまたまその日、その中学時代の君といっしょに帰ることになったのだが、前の日、いや人生を変える人と出会う前まで抱いていた思いは跡形もなく消えてしまい、彼女はぼくにとってただの人になってしまっていた。
その後も彼女に対してはいっさい関心を持たなかった。 後年、友人たちと彼女の家に遊びに行ったことがあるのだが、全然女を感じなかった。 『いったい、中学の3年間、何を苦しんでいたんだろう?』と今でも思っている。
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