意外な事実を知った。 それは、先週夜間の店内で暴れていた小動物は1匹ではなかった、ということだ。 日替わりで二ヶ所のセンサーに引っかかっていたのだが、それぞれ違う動物だった。 一匹はおなじみのイタチ君。 あとの一匹が、なんと黒猫だったのだ。 そういえば、イタチ君が現れる場所、つまりぼくのいる売場付近と、もう一ヶ所の倉庫側の付近の臭いは違ったものだった。 もう一ヶ所のほうは、人間の汚物に近い臭いがしていた。 おそらく、二匹でバトルを繰り返し、興奮した状態でこちらが仕掛けた毒饅頭を食べたことだろう。 とうとうイタチ君は現れなかったが、黒猫のほうは倉庫の奥で死体となって見つかった。 死骸は生ごみとして処理し、死骸のあった場所は店長が塩をまいて清めたそうである。
さて、店長とその話を事務所でしていた時のこと。 事務所の入り口で店長を呼ぶ声がした。 「てんちょー」 パートさんだった。 店長は「あ、何ね?」と言いながら、ぼくの前を通ろうとした。 その通路が狭かったのか、店長はぼくの足につまずいて、フラフラとよろけてしまった。 ぼくは思わず、「何をよろめいてるんですか?」と言った。 すると、店長は顔を真っ赤にして「誰がよろめきよるんね」と言った。 そうだった。 ここは、「何をよろけてるんですか?」と言うべきだった。 ぼくたちの時代は使ってなかったが、ぼくより上の年代の人は、この「よろめく」という言葉に深い意味があるのだ。
ぼくが中学生の頃、麻田ルミ主演の「おさな妻」というドラマがあった。 「♪おさない妻と 人は言うけど 愛することに かわりはないわ・・」という主題歌で、麻田ルミ本人が歌っていた。 ぼくは時々その番組を見ていたのだが、タイトルのわりには健全なドラマだった。 そのドラマの中で、「二人はよろめいているの」というセリフがあった。 ニュアンスとしてはよくわかる言葉である。 が、ぼくはその言葉に、えらく古めかしく、かつ艶かしいものを感じたものだった。 では、ぼくたちが同じ意味のことを言うのに、どういう言葉を使っていたかというと、「二人は出来とう」である。 今と何も変わらない。 『ふーん、店長の時代はこういう言葉を使っていたのか』と思っていた。 そして、今日は店長の顔を見るたびに「よろめきおじさん」と言ってからかってやった。
家に帰ってから、この日記をつけるために、ちょっとその「よろめく」という言葉を調べてみた。 ところが、そこにはぼくが認識している意味と違った意味が書かれていた。 それは、「誘惑にのる。特に、浮気をする」(goo国語辞典)である。 ドラマ「おさな妻」では、同級生同士が恋愛している、という時にこの言葉を使っていた。 ということは、「浮気をする」という意味で使っていたのは、もっと前の時代だったのだろう。 店長はぼくより10歳上だから、「おさな妻」があっていた頃より、もっと前の時代の人間である。 ああ、そうだったのか。 それで顔を真っ赤にしていたのか。 これは悪いことを言ってしまったわい。
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