ぼくが初めて自転車に乗ったのは、小学3年生の時だった。 2年までは周りに自転車を持っている人がいなかったので、それほど興味を持たなかったのだが、3年になるとクラスの連中が乗りだしたということもあり、俄然興味を持ち始めた。 当時の自転車の価格は今とほとんど変わらなかったから、当時貰っていた一日10円の小遣いをどう貯めても手が出るものではなかった。 世間ではその頃CMで流れていた「ツンツン、ツノダ」や「ミヤタ」といったブランド品が流行っていたが、あまり裕福でなかった我が家で買ってもらえるような代物ではなかった。
それでも何とか、名も知れぬメーカーの中古自転車を買い与えてもらった。 自転車が来たのは土曜日で、その日は嬉しくて眠れなかったのを覚えている。 明けて日曜日から猛特訓が始まった。 とにかくバランスが取れない。 最初の一漕ぎで倒れてしまう。 何度かの挑戦で、ようやく二漕ぎ三漕ぎ出来るようになったが、それでも10メートルも達せずに倒れてしまう。 今度は親や友達から後ろを持ってもらい、適当なところで手を離してもらったが、 「離すよー」と言われたとたんに倒れてしまう。 何度も何度も倒れて、怪我はするし、ハンドルは曲がってしまうし、結局初日は乗れずじまいだった。
翌日、クラスの嫌いな奴から「おれは一日で乗れるようになったぞ。教えてやろうか?」などと言われたので、頭に来て「お前なんかに頼まん」と言って断った。 家に帰り、友達に手伝ってもらいまた練習したが、全然進歩がなかった。 3日目も同じ状態だった。 「明日は絶対乗れるだろう」と期待していた4日目も同じだった。 お手伝いの友達もさすがに呆れて、「おまえ、下手やのう」と言うしまつ。 ぼくも、さすがにこの時は悔しいやら落ち込むやらで、その友達に「しゃーしい(うるさい)!自転車なんか乗れんでも生きていけるわい」と言って、喧嘩になってしまった。
5日目に奇跡が起きた。 その日は朝から何か体が軽くなったような気がしていた。 家に帰り一人で自転車に乗ってみると、なんとスイスイと漕げるのだ。 「何でこんな簡単なことが出来んかったんやろう?」などと思いながら、その辺を一周した。 「よし、あいつの所に行って驚かしてやろう」と、前日喧嘩した友達の家に自転車で向かった。 彼の家は、ぼくの家から200メートルほど離れた位置にあった。 ぼくが倒れることなくその家の手前まで来た時、その道の真ん中で、小さな子が座り込んで遊んでいた。 「おーい、危ないけ、どけー」と言ったが、聞こえてないのか、道に座り込んだままだ。 しかたないので、ハンドルを切りよけた。 が、何せ初運転、ハンドルを切りすぎてその子の上に倒れてしまい、初事故になってしまった。
その日から、ぼくと自転車との格闘が始まるのだった。
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