行人徒然

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センスの問題だからね
2004年05月27日(木)


 この前母さんに買った茶碗だが、どうやら滑って落としてしまったらしい。ひびが入っているので食べているので、今度は別の新しい茶碗を買った。もう少し軽いのがいいと言っていたので、そういうのにしたのだが、果たして気に入ってもらえるだろうか・・・
 茶碗だけじゃなく、ハンカチとかもそうなんだけど、丹治嬢品を贈るのは意外と難しい事に気付いた。なにしろ、その人の手に触れたときに肌がぱっと輝いたり、もの自体が輝いて見えなければだめだし、いい柄でもそういうものでなかったり相手の趣味に合わなければただの無粋もので終わってしまう。今回は大丈夫だろうか・・・
 そごうで買ったので、そのまま本屋によって乱歩の「緑衣の鬼」を買った。大人向けの乱歩の本のほとんどに明智小五郎も二十面相もでてこない。今回もそうだった。
 小さい頃からそうだったけど、今でも明智さんが大好きだし、小林少年も大好きだ。歳を経て、二十面相の心意気にほれてみたり、愉快犯の喜びに共に浸ってみたりしたけど、もう、あの暗い細道や夜の静けさはないなぁと思うとたった60年もたってない、急激な変化に切なくなる。
 あたしはあの頃の日本を知らないけど、夕焼けの中に伸びる長い影とか、なぜか不安になる遊んだ帰り道とか、そういうところは共感できるし、あたしなりの古い日本のなかで、乱歩の話はどこも懐かしく、切ないセピア色だったり、賑やかな当時のネオンがきらめいたりする。
 大人になったって、暗い夜道の電信柱の影から、人が出てきたら怖いじゃないか。乱歩ふうに書くなら、

 行人が暗い夜道に、たった一人で家に帰る途中、こつこつと自分の靴がコンクリートの道路を叩くのを聞いていると、世の中に自分以外の人が誰もいないのではないかと言う考えがふっと頭を過りました。それくらい夜も遅く、人通りはなかったのです。
「おや?」
 そんな中、目の前のごみ捨て場の影が急に動いたような気がして、行人は目を見開きました。
 こんな時間に野良猫かしらん。いやいや。野良猫があんなに大きなものか。
 もしかして、最近新聞を騒がしている変体さんかしら。
 ここのところ、新聞では変体さんの話が毎日のように世間を賑わせていて、やれつかみ掛かられただとか、女性が切りつけられただとか、風呂場や庭を覗き込んでいただとか、人が集まるとその話で持ちきりだったのです。
 変体さんだったらどうしよう。
 そう考えると、今にもその影がバァと言って踊りかかってきそうな気がして、行人はきゃっと言って逃げ出したくなるのですが、恐怖に胸をどきどきさせながら、なんでもないようなふりをして、ごみ捨て場の横を足早に通りぬけるのでした。

 ・・・・ってな感じかな?今、手元に乱歩の本がないからちょっとわかんないけどさ。どきどきじゃなくて、わくわくかもしれない。その当り、乱歩ってちょっと特異な使い方するから。
 ま、とにかく、乱歩は好きなんだよう。
 それだけの話。



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