行人徒然

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それが当たり前
2002年02月22日(金)

 昨日、N嬢と熊谷まで行きました。N嬢片思い中のKくんに会うためだったんですが・・・なんであたし必要なんだろう???

 その時の話し。
 N嬢が職場の新人さんを
「使えない、使えない」
 と連呼してたんですね。Kくんはちょっと苦笑気味。あたしは彼女と新幹線乗ってた頃からいつも言ってる言葉をまた言いました。

「新人ってのは、使えなくて当たり前。それを使える様にしてあげるのが先輩やベテランさんの仕事であって、いつまでたってもあいつは使えないって言ってるのは、自分が馬鹿だって言ってるのと同じ事だよ」

 ま、一応綺麗事の一つでもあるんですが、あたしはこの言葉を聞いたのが車販新人だった頃。納得して理解したのはさらに3年経ってからでした。


 誰だって、何かを初めて始める時は下手糞で当たり前。使えなくって当然だ。それを先輩達がサポートして、教えてあげて、だんだん一人前になっていく。それまでは何度もミスして、先輩に迷惑かけて、ケツの穴拭いてもらうんだよ。
 人間だってそうだ。産まれたばかりの頃ははっきりいってかわいいだけで役立たず。飯だって一人で食えない。オムツの中に用を足して自分で処理できない。ただ泣いてるだけじゃん。
 それをまわりの大人達がよしよしってあやして、飯の食い方、尻の拭き方、口の聞き方。そう言うのを教えてくれてなんとか大人になっていくモンだろう?やがて一通りこなせる様になると、今度はそれを踏まえて子供から「自分の力で」大人になってくんだ。
 仕事だって、最初はみんな初々しいくて、一生懸命さだけがとりえの役立たずだ。それを回りの先輩達がサポートして、手取り足取り教えてやって初めて独り立ちできる。
 一通りマニュアル通りにできるようになって初めて、自分の力で臨機応変に物事へ立ち向かえるんだ。そこまで先輩達は面倒見て支えてあげなきゃね。
 入ってきていきなり使える新人ってのは、経験者か、そうでなければよっぽどすごいヤツだ。
 つまり、新人の入れ替わりが激しいとか、いつかないとか、そういう問題を抱えている場所って言うのは、先輩やそのほかの人たちのサポート体制が悪いって言うのもあるんだよ。良い先輩達がいないって事だよ。

 N嬢はあたしに散々迷惑かけて世話になったといつも言う。だから、今度は自分が恩を返したいと。
 あたしはそんなふうに感じた事はない。後輩ってのは、先輩に迷惑かけて当然なんだ。自分だってそうだったし、後輩を気にして世話を焼くのは当然の事だよ。
 母親は子供の尻を拭くだろ?でも子供が大きくなってから、赤ん坊の頃の礼だと言って母親の尻を拭くかい?老人介護とは別問題でだよ。拭かないでしょ?
 自分が母親になった時、父親になった時。そういう時に自分の子供の尻を拭いてやればいいんだ。そうした時初めて、両親の恩を返した事になるとあたしは思っている。
 仕事だってそうだ。
 先輩に恩を感じたら、それを返すのは先輩じゃなくて自分の後輩に返せばいい。

 自分が先輩から教えてもらった事は、その人が時間をかけて蓄積してきたノウハウだ。それを自分だけで手に入れるのは大変な事だよ。例えば3年同じ仕事をしていた人から教わったノウハウを手に入れるには、それと同じくらいの時間が必要だよ。そう言う時間を全部はしょって、その人と一応同じ場所に立たせてもらえる。それが後輩の強みだ。
 そうやって3年分の知識を教えてもらって、自分がその上に積み重ねたものを丸々後輩に教えてあげる。そうすれば、その後輩は自分以上に早く同じレベルに立てるだろう。
 いい先輩がいるって事は、そう言うサイクルがちゃんとできているってことだ。だからサービスにしろ、メンテナンスにしろ、年を経るごとによくなっていくんだ。

 今、身の回りにあるもの。文化、技術。そう言うものはみんな古い知識の上に新しい知識を載せて、先駆者が後からくるものに手渡してきた結晶だ。だからあたし達はその恩恵にあやかって毎日快適に暮らしているし、いろいろなものは新化し、進歩していく。
 日常だってそうなんだ。
 ただ、近すぎて、自分の事すぎて見失ってるだけだ。

 忘れちゃいけない。
 どんなに姿をかえてても。


 あたしが何もできない新人で、回りに迷惑かけていた頃。
 みんなにダメだと言われていた頃。
 その人はあたしに言った。

「各務さんね。みんなあなたの販売が遅いとか、そういうこと言うでしょ?
 でも、それはみんなが間違ってるんだよ。
 新人なんだから遅くて当たり前。
 急いでまわって事故とか起こしたら、かえってみんなが困るよ。
 新人のうちは、どんな迷惑もみんな一緒にいる先輩が引き受けてくれる。
 どんな事をしても新人の甘えで許してもらえるから。
 だから、今のうちにたくさんみんなに迷惑かけて、
 謝ってくれる先輩の背中を見ておきなね。
 そしたら、自分に後輩ができたとき、
 あの時謝ってくれた先輩の背中を思い出しながら、
 同じように自分も後輩のために頭を自然と下げられるから」

「新人のうちは、使えなくて当然なんだよ。
 最初から使えてたら、新人じゃないんだよ。
 みんな最初は新人で、みんな迷惑かけてたんだから」

「新人の頃に感じた恩は、先輩に返しちゃ駄目だよ。
 後輩に返してあげるんだよ。
 自分が教えてもらって嬉しかった事、感謝した事を、
 後輩に教えてあげればいいんだよ。
 先輩への恩返しなんて、そんなモンでいいんだから」




 あたしはいい先輩に出会った。
 でも、あたしは果たしていい先輩であったろうか。
 車販を辞めた今でも、時々その思いが脳裏をよぎる。




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