行人徒然

行人【MAILHOME

両親
2001年11月19日(月)

 最近母親と喧嘩ばかりしている。原因は自分にあるのがわかっているだけに、そしてそれがどうしても親に告げることができないだけに、自分が惨めで辛い。

 母親が最近、体調を崩しやすくなった。もうすぐ60。年のせいもあるのだろう。とっくに孫がいてもおかしくない歳だ。
 見合いの話や、知人の息子を紹介する話だとかを頻繁に持ってくるようになった。それが自分には辛い。

(同人オンナとしては、そのときに母親が「うちの子は自分で話を書いて、お友達と本を作ってるのよ」なんて言ってるほうが辛いので、それは二度と言うなと口止めしておいたのだが、真相などわからない。)

 誰かを愛そうという気持ちも、誰かから愛されたいと言う気持ちも、磨耗してどこかに行ってしまったくせに、それでもその温もりを求めたがる気持ちが涙を流させる。

お前が誰かを愛そうなど、そんな人並の感情を持つことは許されない。
誰かから愛されようなどと、そんな贅沢な思いを抱く事は許されない。

 それが、15になる前に得た自分の価値観だった。両親達は変わらず「家族の愛」を注いでくれたけど、家の門を出たそこには、自分を受け入れてくれる場所なんてなかった。食事を共に取る友も、イベントの時に一緒に座る友も・・・話し掛けてくれる友もいなかった。それを両親に気付かれるのは、嫌だった。両親を困らせるのは嫌だった。

生きる価値などない。
死ねば葬式などで迷惑が親にかかるから、死ぬ事さえできない。
両親の前だけでも「普通の」子供を振舞っていたい。

 その思いは、やがて自閉へとつながっていった。親の前だけでは普通だけど、学校では顔さえ上げなくなった。耳に聞こえるのは嘲笑だけで、それを聞かぬようにと内側へもぐりこんだ。
 内側へもぐりこめば、異世界がそこにあった。誰からも必要とされるヒロイックファンタジーの世界。当時ノートに書いていたのは、授業の内容ではなくて己が必要とされるその世界の事だった。
 話し掛けられる事がわずらわしい。それに答えるのもわずらわしい。でも、一人きりは嫌だった。甘ったれた子供だった。いまだってそうだけど。






 ほっておいてください。
 かまわないで。
 このせかいにそんざいしていないから。
 みんなこっちからはなしかければむしするくせに、
 どうしてあざけるときだけこのそんざいをみとめるの?






 誰かを好きになって、
 告白をしたけどふられた。
 当たり前だ。
 自分はそこにない存在だったのだから。

 誰かを好きになろうとして、努力をして嘲われた。
 当たり前だ。
 自分は異世界の珍獣なのだから。







 やがて自ら外部を謝絶するための檻は、そこから抜け出し、今になっても見えない枷となって心を蝕んでいる。もはや治す事はできない。己の一部と化したそれを剥がせば、きっと自分も死んでしまう。
 この枷があり、檻の中にいるかぎり。珍獣として存在し、人間の皮を被っているかぎり。
 あたしはそのギャップを埋めるために話を書いて己を慰めていけるのだし。






 父さん。母さん。
 バカな自分をほっておいて下さい。
 甘えていて、親不孝な事は知ってるんです。
 愚かな虚勢を張っていることも、我儘勝手であることも、
 自分はちゃんと理解してます。
 あなたたちに気遣われるのがいちばん辛い。
 普通ではないこの身を、この捻じ曲がった精神を、
 気遣われるのがいちばん辛いんです。






寂しくなって生きていけなくなったら、
一人でちゃんと死にますから。
あなたたちに迷惑をかけないよう、
あなたたちの死を見てから、一人で死にますから。




 ほんとは誰よりも、愛してるって言われたいけど、
 それは贅沢な望みなんです。
 その言葉は、あたしを嘲うための罠なんです。
 あの時そうだったように・・・・
 誰も助けてくれなかったように。



誰かを愛しく思う気持ちなんて、
絵空事の中だけでいいんです。
自分を裏切ったりしない、その虚構の中だけでいいんです。



 今まで生きてきた時間の半分以上を、
 自分で作り上げた偽りの中で過ごしているのだから、
 私の存在がない「現実」を目の前に突きつけないでください。



そう。
いまだに逃げているだけなんです。



 でも、ほんとにお見合いとか、
 あたしは興味ないんです。



BACK   NEXT
目次ページ