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自転車置き場解約
2001年10月12日(金)

 高校に入学する前から使っていた自転車置き場をとうとう解約した。最初は個人経営のお花屋さんの庭先から始まったその置き場は、今では8階建てくらいのビルの一階になったので雨風からは守られている。でも、実はずっと一つの不満があったのだ。

 それは、自転車を倒されたりすること。

 簡単に言えば、自転車置き場を経営してるのはその花屋さんのおじさんで、今はビルオーナーのおじさん。朝と夜に自転車の整理をしてくれるんだけど、そこは一時預かりや月極の値段が駅前で一番安いところ(無料のところは駅の反対側)なので、毎日割と混んでいる。
 にもかかわらず、朝夕一回しか整理をしないもんだから、昼間に行けば自転車は入れにくいし(というより入れられない)夕方早く帰ってくれば自転車を出すことすら難しい。
 それでもおじさんの人柄もいいし、なにより少し自分も我慢すれば言いだけだからよかったんだけど。
 でも、自転車倒されちゃうのって、すごくいやだったんだよね。
 要は、混んでぎちぎちに詰めて置かれている自転車の中から、無理やり自分のだけ引っ張ろうとすると周囲の自転車は負荷がかかりすぎて倒れちゃうんだ。それにもかかわらず、無理やり出して自転車倒す馬鹿がいるし、それを直さない大馬鹿もいる。
 あたしの自転車は片スタンドだから、どうしても倒されやすかった。その制で篭はぼこぼこになったし、スタンドも何回も買い換えてつけなおした。チェーンをはずされてしまったこともある。チェーンって、横からの強い衝撃で外れるんですよ?
 でも、自転車置き場のオヤジは、それに関して何も言わなかった。壊れたりするのはこちらの責任じゃないって言うスタンスだったけど、でも、その原因を作っている半分は明らかに許容量を超えた自転車をそこにおいているせいだとあたしは思っている。
 あともうひとつ。
 オヤジは朝も夜も、一応庭先(またはビルの置き場)に出てくるとき、割とパジャマなのだ。別に自分の敷地内だからいいじゃんとか思ってるのかもしれない。でも、パジャマでひげも当たってないような状態で、場合によっては歯を磨きながら自転車を整理してる。結構、だらしなくって嫌だった。
 最近は娘さんに子供が生まれたようで孫ばかなんだけど、孫の相手ばかりして手自転車整理をしなくなったって言うのはどうよ?
 十年以上付き合いのあるあたしの顔なんか忘れちゃったみたいで、少し前までは挨拶しても無視してたんだ。1年くらい前までは覚えててくれたみたいなんだけどさ・・・・
 そう言う些細なことって、やっぱり積もってくると大きいじゃない?しかも、ビルになってからはなんか態度でかくなっちゃったし。市議会選出たけど、落ちちゃったんだよね。当たり前だよ。自分の自転車置き場さえ満足に管理できないのに、市なんか管理できるかっての。

 そんなあたしの目の前に、市が経営している自転車置き場が目に付いた。今までなかったんだけど、駅前再開発に乗じて作られたらしい。二階なので少し出し入れが大変だけど、一台一台スタンドで固定されてるので倒される危険はないし、管理人さんも市で雇った人が6時から20時までいるし(でも、多分シルバー人材派遣じゃないかな?すごく人当たりのいい人ばっかりだよ)、何より、今まで使っている場所より安かった。(一階は同じなんだけど、二階は400円安い。そして当然の様に一階は満車)
 長い事、10年以上(小学生時代から、一時預かりで使ってたからね)、それこそ20年近く使ってた自転車置き場だったけど、あたしは解約しようと思った。
「いつもお世話様です。月極のことなんですが」
 声を掛けたあたしに、オヤジは誰こいつ?と言う顔をした。少し前までなら
「各務さんこんにちわ」とか
「妹さんは朝早いね」
「お父さんも最近自転車なんだね」
とかそういう会話があったのに、親父はもうあたしのことを忘れてるので
「誰、こいつ」なわけだ。
 決定打になった。
 今月いっぱいはここを使おうと思っていて、市営駐輪場にもそう話しをしてスペースを11月からもらう事にしてたんだけど、口からは違う言葉が出た。
「すいませんが今日で月極、止めさせてください。今月はもう始まってるので、今日までの分、いくらお支払いすればよろしいでしょうか」
 オヤジは相変わらず「誰?こいつ」な顔をしていたけど、そのまま解約はあっけなく終わった。月の支払カード(お金を払ったらはんこを押してもらう)を返却し、自転車につけてるプレートをはずしておしまい。
「長い事お世話になりました」
 あたしの言葉に、オヤジからの返事はなかった。孫の泣き声だけが聞こえていた。すごく感じが悪かった。
 その足で、あたしは市営の駐輪場へ向かった。管理のおじいちゃん(推定60歳)はにこにこしながらあたしの変更を受けてくれ、翌日から駐輪場を使えるように手配してくれた。

 今まで使っていた駐輪場のオヤジと、これから使うことになる駐輪場のオヤジ。違ってしまったのは人間性なのかなと思った。



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