行人徒然

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2001年01月09日(火)

 かつてつばさ号に頻繁に乗っていた頃。もちろんお仕事で、車内販売員としてですよ。
 冬、仕事の合間に板谷峠や南陽町付近を見るのが好きでした。
 深い雪に覆われて、普段は聞こえるはずの音もほとんどなく、そこに降っていようものなら、雪は風と一緒にさぁさぁ音を立てて雨のように降っていました。
 そして、冷たいドアのガラスに鼻先や頬を押し付けるようにして、いつもその音を聞き、外を見ます。

 ・・・彼らは、この雪の中で何を見て、何を感じていたのだろう・・・

 歴史に興味のある各務は、知将や名将を調べる際、その生き方を好きになることが多々あります。
 板谷峠から米沢市、さらに南陽町へ。何百年と遡ったそこでは、名将として誉れ高い上杉一族が治めていた土地。そして知将直江氏が治めた場所でもあります。当時、もっと寒く雪深かったはずの山々。全てを覆い隠す雪と氷の軍隊を従えた将軍を見て、その凍てつく御旗を見て、彼らは一体何を感じ、何を思ったのだろう。
 山形の手前に、かみのやま温泉という駅があり、車窓から上山城を見ることが出来ます。小山の上にたつその城は、春先に裾野を桜で染め、新緑の匂う夏。赤く燃える秋を通り、全てを無に返す雪で最後は覆われます。まるでそれは次の春に向けて新しく染める画布を用意するように、その鮮やかさを際立たせるかのように真っ白く、本当に何もなくなってしまう冬。
 3回そこへ行きました。最上階の展望室から見渡す景色。全てが己のものであったその時代に、彼らは凹凸さえ失われた白色の世界に、一体何を見たのだろう。
 春と、夏しか足を運べませんでしたが、風も、鳥の鳴き声も、草木の匂いさえも己のものであった、その時代の人々。
 目を閉じれば、行き交う人々の声は消え、布ずれの音さえ変わり、魂は帰ろうとする。何百年も前へ。
 聞こえる声。古い言葉遣い。軋む音。匂い。
 全てが破られる瞬間まで、手に取るように見えてくる。
 だけど、気持ちは見ることが出来ない・・・・

 知識と想像に基づく旅は、誰かが各務に声をかけてくるまで、または誰かが各務に触れるまで続きます。
 今年はあの雪を見ることは出来なそうですが、目を閉じれば見えてくる山肌。夏の大雨で、峠はあちこちが崩れて、そこに雪はどう積もったのだろう。
 今晩、想像という旅に出ることが出来たら。そしてそれを覚えている事が出来たら。峠は私を迎えてくれるかもしれません。時代の人々が受け入れてくれれば、彼らと雪を見ながら上杉神社の境内で話せるでしょう。
 その時は酒と焼茸と味噌と塩を用意して、鮮やかな笹の葉の上に盛り付けて、これで魚があったらなぁと、あの時のように笑うでしょう。
 でも・・・冬に茸も、どうやって手に入れればいいのかな?なければ味噌と塩で、雪を肴に飲めばいいだけだど。月も出たら、最高だね。そしたら彼の笛を聞きながら、また歌を詠もう。
 今晩・・・逢えるかな?北で逢えぬなら、西なら逢えるか?探しに行ってみよう。そして、杯を交わそう。



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