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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■ゆでたまごとビール。
99年夏、船の階という集団でお芝居をしたとき。
そのうちの1回をモーニング公演にしようと考えた。
朝11時くらいに開演して、受付でゆでたまごを配るのだ。
本番当日の朝にたまごをゆでる時間があるのは演出家しかいないので、
もちろん私がゆでようと思っていた。

とてもいい思いつきだと思った。

劇場の花とかに「祝・公演」と書いたりするところを見ても、公演と言うのはおめでたいことなのだ。お祝い事は午前中に、というのは日本の文化だ。それに、午前開演なら夜だと劇場に行きにくいひとも観劇できるし、午後から別の公演を見に行ったりランチや買い物しにいくこともできる。

とてもいい思いつきだと思った。

チラシに書く前に一応、役者とスタッフに相談した。

なんと、ほとんど全員から猛烈な反対を受けた。
反対しない人も何人かいたけど、そのひとたちはじっと黙っていた。
つまり、誰も賛成しなかった。

「そんなのは変だし嫌だ。」

というのが彼らの意見だった。

「え〜?やろうよ。」
と食い下がってみたけど、今度は全員が黙っていた。

誰一人賛成者がいないので、仕方なく断念することにした。
たまごをゆでるだけのひとと朝から舞台に立つひとの意見のどちらを優先すべきかを考えたら、そういうことになった。みんなほっとした顔をしていた。

観劇アンケートにこっそり「朝11時開演の公演があったら見に行こうと思いますか?」という項目を入れた。役者は、「まだあきらめていないのか?」という顔をしていた。330人の観客の中で
「行こうと思う」に○をつけたのはひとりだけだった。惨敗だった。役者は、「そらみたことか。」という顔をしていた。

彼らが強固に反対した一番大きな理由は、11時に舞台に立つために朝起きなければいけない時間を逆算したからだと私は思っている。
お客さんが賛成しなかったのも同じ理由かもしれない。

 *****************

月日は流れ。

あのとき一番強固にモーニング公演に反対した役者は今(午前11時35分)、本番の舞台に立っている。彼は今、東京の劇団にいるのだけど、その劇団の公演が先週末から関西であって、関西公演の千秋楽が今日の11時開演なのだ。最近、モーニング公演をする劇団はちらほらとある。その劇団もときどきふつうに午前開演を行っている。特に問題が起きたという話も聞かない。

友人でもあるその役者の久しぶりの関西公演を見に行った。
悔しいけど事情があって、今日のモーニングではなく昨日のマチネを見た。そのあとで、久しぶりに一緒に飲んだ。いろいろ話せて楽しかったのだけど、その話はまた改めて書くとして、今大事なのはモーニングだ。

お開きの時間になって、「明日の劇場入りは何時・・・?」と何気なく聞きかけて、「あ・・・・・・・。」と気づいて息をのんだ。

ふと友人の顔をみると、彼もこっちを見ていた。

・・・・・・・・・・・覚えてるのか?

私はそのままじいっと顔を見ていた。

「・・・・・・時代が早すぎたんだよ。」
言い訳するように、彼は言った。
今まで覚えてるのもすごいけど、今から言い訳するのもすごいと思った。
「昔は、公演は夜に決まってると思ってたもんだから・・・・。」

12年の時を経た勝利。
いや、だから何だということもないわけだけど。

でも。
みんなが日本酒で盛り上がってる中、彼がビール以外に全く手をつけないことにふと気付いた。

勝ったのは私じゃないなと思った。

06月25日(月)
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