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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■工場
10歳までの数年間。
工場のある町で暮らしました。
兵庫県西宮市は、日本酒の生産で有名な町です。
宮水というとても質のいい水が出る井戸があり、近くで米がとれることもあって、日本酒の町になりました。
ですので、その町にある工場は酒工場です。
日本酒を作り、瓶に詰めて出荷する工場です。
12時と5時になると、工場のサイレンの音が町中に響きます。
子どもたちは、5時のサイレンが鳴ったら家に帰るように言われていました。トラックの通る大きな道の横を通って小学校へ通いました。
大きな門があって、麴の香の漂う中、トラックが門をはいっていきました。敷地の中にはたくさんの箱が積まれていました。
私が、子どものころからしっている工場は、油のにおいのしない、けむりももくもくしない、大きな音も鳴らない、からんとしたただっ広い工場でした。私はその工場が大好きでした。。
先日、道の階という集団で食パン工場のお芝居をしました。
食パン工場は登場しないのですが、舞台になっている道の向こうに食パン工場があるのだと、登場人物が始終説明するのです。
合評会のとき、「なぜ、食パン工場なのですか?」と質問されました。
なぜ???と言われても、登場人物がそう言ってるので、としか答えようがなく、しかも嘘だそうですよ、と言うほかなく、でも、そういうことを聞かれてるわけでもないような気がして、黙りこんでしまいました。隣に座っていた出演者の片桐さんが、助け船を出してくれました。
「夢をみたっていってませんでした?」
そう、夢を見ました。このお芝居を作る数カ月前。
夢の中の食パン工場は、人気のない、あまり車も通らない広い幹線道路の先にありました。夢でも、食パン工場は登場しませんでした。その道の先に食パン工場があるのだという夢でした。町のいたるところに案内があって、「食パン工場はこちら」と書かれているのでした。ほとんどひとがいないというのになぜか電車が2本乗り入れていて、どちらも「食パン工場前」という駅名でした。その町は、食パン工場なしには成立しない町のようでした。
私はそこである駅員さんと知り合いになり、もうひとつの駅の秘密を探るべく、いろいろ動くことになるのです。その結果わかったことは、なんと、二つ目の駅の二階に・・・・・・・・・・いえ。でも、これはお芝居のこととあんまり関係ないので省略します。
とにかく、そういう食パン工場の、いえ、正確に言うと食パン工場のある町の夢を見ました。
「その夢が、もしかしたら今回の芝居に関係あるかもしれません。」
と言ったら、司会者の方が、
「それはそうでしょう。」と答えてくださいました。
そうか、なら、あの夢はどこから来たんだろう?
考えているうちに、あの酒工場だと思い至りました。
10歳までの記憶は侮れないです。
12月08日(木)
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