ID:94789
きゅっ。
by きゅっ。
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■決勝の日
『100分の2秒なんて、ぜんぜん進歩してないじゃん!』
『進歩っていうのは、コンマ1秒単位なんだよ!』
マアサちゃんがきっぱりと言う。リレーの準決勝を2組目の3位、総合6位で通過したことを報告しにいったときのこと。予選時より0.02秒速いタイムであったが、ライバル校はもっといいタイムが出ていた。
この日、マアサちゃんは、リレーの準決勝(9時00分)、ハードルの予選(11時00分)・準決勝(12時40分)・決勝(14時00分)、リレーの決勝(14時50分)と5レースを走ることになっていた。当然、個人ハードルでの全中出場とリレーの全中出場の二つを目標にしていた。
ハードルは、全国大会参加標準記録が15秒24。コンディションさえ合えば充分に狙えるタイムであるが、公式大会で記録したことはなかった。100分の1秒単位の重みを一番わかっているのは選手本人である。
ハードルの予選・準決勝ともタイムが伸びない。15秒3台にも届かない。決勝には実力どおり残ったものの、記録に不満があった。
そして迎えたハードルの決勝。スタート位置から試走を繰り返すうちにマアサちゃんの太腿に針を刺したような痛みが走った。思わず顔をしかめ、脚を擦った。表情が厳しくなる。でもここで挫けるわけにはいかない。気持ちを引き締め、スタート地点でハードリングをイメージを繰り返していた。
ハードル決勝のチャイムが場内放送された。決勝出場の選手紹介があり、スタートの時を静かに迎えた。
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マアサちゃんは、掲示板の前でお母さんに抱かれ泣きじゃくっていた。声かける言葉が見つからない。掲示板に目を凝らすと、マアサちゃんの名前は5位のところに。そして記録は15秒43。コンマ19、約コンマ2秒足りなかった。
レースを振り返ると、スタートが失敗だったと思う。明らかに遅れていた。50メートル付近で追いつき、ほぼ横一線。ゴールでは5・6人がダンゴ状態で飛び込んだように見えた。
決勝の記録を見ると、1・2位が15秒24を切っていた。ほかにも予選で全中参加標準記録を突破した選手がいて、3人が全国大会へ出場することになったらしい。
記録を突破してる選手たちとマアサちゃんは互角以上の戦いを今季やってきた。事実、何遍か勝ってるし。コンディションや運といったもので明暗がわかれたような気がする。
そして、ハードルの決勝の余韻が収まらないうちにリレーの決勝を迎えることになった。
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リレーの決勝は、出場選手の個人名がアナウンスされる。1コースの1走をマリが走る。立ち見が出るようなスタンドの中のトラックにマリが立っていることを、不思議な気持ちで見ていた(明らかに他の短距離選手と違う男性的で筋肉質な身体を。)。
あとは、走るだけ。アスミちゃんの代わりとしてではなく、自分自身のレースをするのみ。全選手がスタート位置に着いた。
緊張の一瞬。
手を合わせ、下を向き、目を閉じ、祈った。祈ったというより、頭の中が白くなった。
次の瞬間、ピストルが2度鳴らされた。フライングだ。場内からどよめきが起こる。決勝に残ったチームはどこも実力のある学校ばかりだ。みんな全中狙っている。第1走者は、少しでもいいスタートを切りたい。
再度、スタート位置に選手が着いた。
今度はピストルは1回だけ。目を開け、ダッシュするマリを見た。準決勝のときは、身体が重いなぁと思ったが、うまく弾けている感じがする。他の1走に遅れていない。
バトンも上手く2走のマユミちゃんに繋いだ。2走はバックストレッチを走るので、全チームの状況が良く分る。悪くない。巻西、小針がややリードしてるが、その2チームにも喰らいついている。
3走のマホちゃんへ。伸びている。綺麗にコーナーを回ってきた。いいぞ。あとは、マアサちゃんだ。
「ぁ・・・。」
溜息が漏れた。
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07月29日(火)
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