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ゆれるゆれる
by てんのー
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■街に出よ、書を買おう
 スーツで街に出る。
「ああ、忙しいんだな。」
「まだこなれていないな、学生さんかな。」

 ジーンズで街に出る。
「休みかな。」
「バイトくんかな。学生かな。」

 広島ではすべての行動に言い訳が必要だ。
 良く言えば「おや、どちらまで」「ちょっと、そこまで」の、言葉の意味とは関係ない挨拶だけれど、俺などは普通そうは感じない、ただ不愉快になるだけだ。関係ねえだろ。と。

 東京では言い訳はいらない。不審者にならないように気をつければいいだけだ。誰も俺なんかに興味を持ってくれないのを、気楽と感じるか、どうか。

(よその国へ行くと、何して暮らしてんだか、暇そうな怪しい人たちばっかりで、嬉しくなる。)

 帰りに、内田百フ『続百鬼園随筆』を買う。
「読みやすい新字新かなづかいで復活!」。これが宣伝文句だと思ってる新潮文庫。
 ユーモアとはこの人のことだ。と思う。
 それにしても、いいなあ。こういう笑い。この人の日本語。

 まだ途中だが、前半では「立腹帖」がお気に入り。なんともいえない、ニヤニヤしちゃういい感じ。「続立腹帖」は全体が「立腹帖」のオチみたいで、すごいなあと思う。

 よく同じように取り上げられるが、永井荷風の風流人ぶりは俺の趣味じゃない。ありゃ俗物じゃないか、君、と声を張り上げたいのである。
 張り上げてみよう。けれども百鬼園先生はにやにやするばかりで何も言わない。

 ふと思ったが、こういう門人を持てたというところに、じつは漱石の漱石たる所以があったのかもしれない。
 せっかくロンドンに留学したのに、難しそうな顔をしていらいら、いらいら、部屋に閉じこもってばかりいたというのはずいぶん百フふうな光景じゃないかと思うんだが。
06月17日(火)
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