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ゆれるゆれる
by てんのー
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■晴れ
今日もまた書くことがないまま一日が終わろうとしている。
宮武外骨『一円本流行の害毒と其裏面談』(青空文庫版)読了。なんというか物好きの好みそうなしろものだ。僕がこれを手に取った(?)のも片隅の物好きがうずいたせいだ。エキスパンドブック版のこの作品では、入力者も物好きなほうらしくて表紙やら奥付やらを再現して、こだわれるところはとにかくこだわろうとしているのがまた目立っている。(なのになぜ、表記を現代風にわざわざ改めるというとんでもない身勝手をあえてするのだろうか。おかげで本文云々よりちぐはぐさがいっそう強調されてしまった。)
外骨氏は、いかに一円本という出版形態が軽薄で、人を馬鹿にしていて、良書や心ある読書人を貶めているかを、おそらく大真面目にぶった切っているのだが、なんともその書きぶりがおかしくてそこここで笑ってしまった。
又著作者としての行為で最も不徳を極めた者は、利口不食(きくちくわん)ではなく破廉恥漢なりと呼ばれた泥仕合の総大将である
とか、(なおこの総大将とは「汝に良心ありやと罵られた」「出版界の狸爺」の「ノロマ」だそうだ)
彼の講談社などが「満天下の熱狂的歓迎」と云っても、誰一人信ずる者はなく、「売切れぬ内にお早く」と云っても、急いで買いに行く者はあるまい、と難ずる人もあらんかなれど、講談社の如きヤシ的出版屋の広告はそれにしても、・・・(後略)
仮令や文芸上の大傑作であっても、其読者が低級で作の真髄に触れるだけの能力なくば、猫に小判、寧ろ時間浪費の損あるのみ、真珠と瓦礫との区別がつかない米屋の小僧、蕎麦屋の出前持輩にトルストイを読ませイプセンを読ませて何にかなる、これをしも文学の普及とはチャンチャラ可笑しい、又大衆の名をかりて徒らに末梢神経をのみ刺激する非芸術品の横行、これをも文運の促進とは聴いて呆れる、大量生産の十が九は、それ等の手に帰する外はあるまい、これを我輩は多数少国民を荼毒せし文弱化と叫ぶのである、判ったか
などと、もう言いたい放題でうらやましいほどだ。とくに最後の「判ったか」のほか、「ド畜生奴」「ここな文壇の剽窃犯人(どろぼう)」「ナモ」と各節の締めの文句が秀逸ぞろい。
いやいや、まいった。なんとかして外骨氏には墓場から抜け出してもらって、活発に現代を斬ってもらいたいものだと切望する。
09月12日(木)
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