ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■2363, 郵便配達夫シュバルの理想宮 −2
シュヴァルの凄さは、理想宮が明らかに意味あるものなら解るが、
今でいうテーマ・パークを、誰の理解もされずにただ黙々と石を集め、
自分の心の命じるまま理想宮をつくり続けたことである。
ただ、そのプロセスの中で生甲斐を感じていたはず、もし感じてなければ続くわけがない。
他の人から見たら何ら意味もないことを、自分でも意味など考えてなかったのだろう。
あるのは、それに取り組んでいるときの何ともいえない喜びである。
続けているうちに、評判を聞いた外部の人が見に来て、褒めてくれたこと、
認めてくれたことなどで、意味を見つけていったのである。
それは結果として、潜在意識の具現化につながっていく事になる。
だから、そのテーマ・パークはみる人の気持ちをうつのである。
もちろん、周囲の人は、その奇異な建物をみても理解などできようがない。
むしろ外部の人は、それを冷静に客観視できるから興味も加えて評価が可能になる。
創造者は、まずは気違いにならないと新しいことは創造できない。
そして周囲は、その姿をみて、気違いという。だから面白いのである。
ーその部分を抜粋したみるー
ー村の気違いー
シュヴァルは、村では最初から異端者であった。
農地を持たない、という一事だけでも、村において、人を異端者とするに足りたであろう。
そのうえ彼には、孤独癖、厭人癖があって、周囲の生活に決してなじむことが
できなかった。パン屋をしながらの数年間の放浪は、そのことを示している。
郵便配達という職業は、この異端を一時期蔽い隠していたけれども、
彼が宮殿を建設しはじめるに至って、この異端は露わになり、決定的なものとなる。
{近所の人たちは、私の毎日の石運びに気づきはじめました。
彼らは最初、道路管理官に売るための資材を私が集めているのだと考えました。
やがて私は、そうではないことを覚らせました。
《じゃあ、どうするんだ》と彼らは訊ねました。
《宮殿を建てるんだ》というのが私の答えでした。私がこんな風に答えると、
彼らは、当惑した様子で私をみつめました。
やがて、郵便配達シュヴァルの天井に蜘蛛の巣がかかった(この地方の言い方に従えば、
帽子に蜜蜂が入った)〔いずれも気がおかしくなった、の意〕という噂がひろがりました。
或る日、局長が私に言いました。
《シュヴァル、この辺では誰もが、君の頭がおかしいって考えてるのを知ってるかい?》
《なぜです?》と私は訊ねました。
《いいかね、皆が言うには、君は宮殿を建てるって言っているそうじゃないか。
菜園を作るかわりに、そこに古い石を運びこんでいるそうじゃないか》
《わかりました、局長、そうしたことが気違いというなら、私はいくらかおかしい
のかもしれません。川で釣りをして楽しむ人たちがいます。村のカフェでトランプを
する人たちもいれば、ペタンクをする人たちもいます。
博覧会にあるような一種の宮殿を建てるために石を集めるのが私の楽しみなんです。
みんながみんな、同じ休みのとり方をするとは限りませんよ》
局長は笑って、こう答えました。
《わかった。多分君の言うのはもっともだ。ともかく君の病気は、無害なものだ。
だから気違い病院に送られることはあるまい。君が仕事をおろそかにしない限り、
そんなことは私には無関係だ》。}
彼はここで、宮殿の建設を魚釣りやトランプと同列に置いているけれども、
これは勿論、局長を納得させるための方便にすぎない。
彼の心の中では、それは断じて、魚釣りやトランプなとと同じ楽しみなどではなかった。
魚釣りやトランプは、日常生活の一駒であり、あとになにひとつ痕跡を残さないが、
これは、日常生活の流れに逆らい、それを食い止め、「この世界で唯一の不思議」
(北の正面の記銘)を作り上げることによって、おのれの否応ない痕跡を世界に深く
刻みつけることなのだから。それは、日常世界の中に非日常の世界を現出させる
ことであり、彼自身もいくらか自覚しているように、まさに狂気の事業なのだから。
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09月22日(土)
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