ID:54909
堀井On-Line
by horii86
[398016hit]
■1685, ザ・マインドマップ−3
見ると雲が湧き上がっています。
遠くからではどの山から出ているか分かりませんでしたが、
やがてヴェスヴィオ山から出ていることが分かりました。
まるで松の木が巨大な幹を上に向かって伸ばし、小枝を空に広げたような形の雲でした。
多分、蒸気によって吹き上げられた噴煙がしだいに自らの重みによって横に広がり、
そのような形になったのでしょう。
雲はところどころ白く、また土や灰を含んでいるところは灰色に汚れていました。
博学な伯父には、これがもっと近くから観察すべき大事件であることが分かりました。
伯父はリブルニア式ガレー船(2段擢の軽装傭船)に部下を乗り込ませ、
私にその気があれぱついて来てもよいと言いました。
私は勉強しているほうがよいと答えたのですが、そう答えたのは、
他ならぬ伯父から課題を与えられていたからです。
伯父が家を出ようとしていたとき、友人タスキウスの妻レクティナから伝言が
届きました。彼女は身に迫る危険におびえていました。
彼女の家はヴェスヴィオ山のふもとにあって海路でしか脱出できません。
そこで救いを求めて来たのです。
伯父は急遽予定を変更し、救助に向かうことにしました。
研究心から乗りかかったことを、義務感という高い次元の感情で実行することに
したのです。
レクティナだけでなく大勢の人々を救助することに決め、
4段櫂ガレー船を用意させてみずから乗り込みました。
魅力的なその海岸には実際多くの人々が住んでいました。
人々が脱出を始めているその場所目指して伯父は急ぎました。
航路を直線に保ち、危険に向かってまっすぐに舵を取ったのです。
全く恐れることを知らない伯父は、噴火の全段階と様相を、
目にするそばから人に書き取らせるか、みずから書き留めていきました。
すでに灰は船の上に降り注いでいました。
目的地が近づくにつれそれはしだいに熱を帯び密度も濃くなりました。
真っ赤に燃える軽石や砂利も見え、川床が露出し、崩れた岩が岸を塞いていました。
伯父は引き返すべきかどうか一瞬ためらいましたが、
水先案内人が引き返しましょうと進言すると答えました。
「勇気を持て。運命の女神がついている。ポンポニアヌスの家に進路を取れ」。
この家はスタビアエにあり、ミセヌムからは湾の半分程難れていました。
海岸線はわずかに湾曲していて、そこに海が入りこむような形になっていました。
このあたりには、当面の危険はなかったものの、状況は目に見えて危うくなって
きていました。
ポンポニアヌスは船に荷物を積み込み、向かい風が止んだら直ちに出航するつもりで
いました。
この風がじつに都合よく伯父の船を押し進めたのです。
無事上陸した伯父は、ポンポニアヌスを抱きしめて慰め、元気づけました。
そして、自信に満ちた態度を取って友人の恐怖心を和らげようと、風呂場に
向かいました。
水を浴びると食卓につき、楽しげに食べました。
というよりは、これが伯父の偉大なところで楽しいふりをして、
友人を励ましたわけです。
この間、ヴェスヴィオ山の何カ所かで大きな炎や火柱が上がり、
その輝きが夜の闇にあかあかと浮かび上がりました。
しかし、伯父はみなの恐怖を鎮めようとして、あれはあわてて逃げた農夫が
消し忘れていった火だとか、取り残された屋敷が燃えているのだと繰り返しました。
それから少し休憩するといって、本当に眠り込んでしまいました。
伯父は太っていたため寝息が大きく、戸の前を行き過ぎる人にもいびきが
聞こえました。
しかし、伯父が休んでいる部屋に通じる中庭は、すでに軽石混じりの灰に埋まり、
もう少し休んでいたら脱出できなかったと思われるほど地面が高くなっていました。
目を覚まして起き上がった伯父は、一晩中起きていたポンポニアヌスらのところに
戻りました。
彼らは屋内にとどまるぺきか、外に出るべきかについて協議を重ねていました。
[5]続きを読む
11月13日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る