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原案帳#20(since 1973-)
by 会津里花
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■発展途上の人
育っていく人を見ているのは楽しい。
今日、ある人のライブを聴きに行った。
その人はとても若く、ギターの腕はその年齢にしてはすごい!と思うけれど、音楽としてはある意味「致命的な欠点」があって、弾いていてリズムがどうしても狂ってしまう……
その人のライブは、でもなぜか目が離せず、かれこれ4回くらい断続的に聞きつづけてきた。
そしたら。
ほんとにほんの少しずつなんだけど、明らかに上達してるの!
「ここでリズムが狂う」という場所も、何度か来るうちにだいたい把握してしまった。
それが、たとえば「4小節に1度」テンポがずれてしまっていたのが、「1フレーズに1度」とかに減っている。
1曲の中で、前は十何回かずれていたのが、今は4、5回に減っている。
こんなにはっきりわかると、ああ、ライブって楽しい、と思ってしまう。
音楽の本当の姿は、音を出した瞬間だけのもので、次の瞬間にはもう別の音がとって代わってしまっているものだ。
でも人間は、常に時の流れに流されながら生きている(自分の意志で時間を行ったり戻ったりはできない)ので、音の流れのひとまとまりを「曲」とか「歌」とかいうまとまりとして捉え、同じような音の流れを何度も再現しようとする。
同じ音は、二度と決して現れることはない。
あのときのチューニングの揺らぎは、もう二度と繰り返されることはないのだ。
あの瞬間のキックとベースのタイミングのずれ=グルーヴは、同じ曲の同じ小節の同じ拍の同じ音符をもう一度鳴らしても、決して同じときめきをもたらすことはないのだ。
再現されるのは、いつも「似たもの」だけ。
録音した音は、そのライブハウスのその空気の振動ではなく、磁気テープやビットの作り出す振動にすぎない。
でも、ただ似ているだけのものでもとっておきたいほど、その瞬間のときめきは、何ものにもかえられないのだ。
最近、わたしは彼のギターのテンポのずれが心地よく聞こえるようになってしまった。
そういえば、ブルースのいちばん昔の有名な人の歌を聞いたら、おんなじようにテンポが5拍子になったり3拍子になったりしてたっけ。
あれはあれで「名人の持ち味」だったりする。
何か、似たような域に達してきているような気がする。
でも、彼は「発展途上の人」。
テンポもちゃんととれるようになるだろうし、もっともっとギターそのものの腕も上げていくだろう。
それだけいっそう、彼の「今」の音を記録しておくことは、貴重なものになるのではないか、と思う。
(彼が有名になったら「アンソロジー」に加えてもらえるかもしれないじゃない? なあんて(笑))
08月28日(木)
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