ID:51752
原案帳#20(since 1973-)
by 会津里花
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■田中宇の国際ニュース解説(2)
 中国は激怒し、楊潔チ外相が「この問題を国際化することは許さない」と表明した。これは説明不足だった。右派のWSJ紙は「南沙問題は、まさに国際問題だ。それを国際化するなとは、中国は何と傲慢なのか」と非難した。中国が言うところの「国際化するな」とは、多極型の世界体制をふまえた言い方であり、南沙群島問題は東アジアの「地域的問題」であり「全世界の問題」ではないので、東アジア地域の外にいる米国は入ってくるなという意味だ。しかし今の国際社会は、まだ多極型世界を前提にしておらず「地域的問題」は公式には存在しない。中国外相の言い方は外交的に下手くそであり、WSJなどに揚げ足を取られて当然だった。

http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703977004575392631691738648.html
South China Sea Ructions

▼米国の翻意の理由

 米国はなぜ、いったん中国の傘下に入れて良いと認めた3つの地域について、あとから「やっぱり中国の勝手にはさせない」という意味の敵対的な言動を発するのだろうか。一つの考え方は、米国内部の「単独覇権主義」(米英中心主義、軍産複合体)と「多極主義」(NY資本家?)との暗闘の観点から見るもので、多極主義の勢力が、中国に第1列島線までの進出を認めた後、単独覇権主義の勢力が巻き返しの言動をやり出したという構図だ。

 もう一つは、全部が軍産複合体の謀略で、最初から米中の敵対関係を作り出すため、中国を第1列島線まで誘い出しておいて、その後で対立激化のための諸問題を、天安艦沈没、台湾への武器輸出、南沙群島問題の対立扇動によって作り出したという見方である。

 そして三つ目の考え方は、すべてが多極主義者の謀略で、中国を第1列島線まで誘い出した後、中国上層部(特に中国軍)の反米感情を煽り、もともと覇権拡大に消極的だった中国を、積極的に米国をアジアから追い出そうという気にさせて、世界の多極化を加速させる策略ではないかという見方だ。

 上記の、黄海(天安艦)、台湾、南シナ海(南沙群島)の3つの地域の、中国に対する米国の戦略に関する、暗闘説、軍産説、多極化説という3つの仮説のうち、私からみて最も可能性が高いのは、3番目の多極主義の考え方だ。

 米国は、3つの地域のすべてにおいて、中国に対峙する姿勢をとったものの、それはほとんど口だけの姿勢の表明で、具体的な策になると腰が引けている。中国の批判を受けて、黄海に空母を入れるのをやめたことが好例だ。台湾への武器売却についても、今年1月の米政府の売却表明に中国が強く反対すると、米政府は姿勢を後退させ、最近では「今年中は台湾への主要な武器の販売はない」と予測される状況に変わっている。

http://in.reuters.com/article/idINIndia-50482620100729
Experts see no big U.S. arms sales to Taiwan in 2010

 そもそも今年1月、米政府が台湾への武器売却を発表した段階で、台湾が強く要望していたF16改良型戦闘機(C、D型)が売却の候補から外され、既存のF16(A、B型)を改良する計画にとどまっていた。台湾が戦闘機の分野で中国にかなわなくなっている流れを逆転させるものではなく、米政府の姿勢は最初から腰が引けていた。「軍産複合体の巻き返し」と考えるには弱すぎる。

 しかも、オバマ政権の台湾に対する武器売却構想は、台湾の馬英九政権が経済関係から順番に中国との関係を急速に改善しつつある中で発せられており、台湾政府にとって米国の提案は、ありがた迷惑だった面がある。台湾側が消極的なのを見て、米国は「台湾の馬英九政権は親中国なので、米国から買った軍事技術を中国に教えてしまう懸念があり、武器を売れない」とも言い出し、武器売却を遅らせる口実に使っている。かといって米政府は、馬英九の国民党と対立する野党民進党の台湾独立派を支援するかといえばそうではなく、台湾で汚職疑惑で裁判にかけられている民進党の陳水扁元総統一族の在米資産を、最終審の判決前に早々と米当局が没収したりしている。米政府は、以前からの、どちらかというと親中国的な曖昧戦略を変えていない。

http://www.etaiwannews.com/etn/news_content.php?id=1333706

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08月18日(水)
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