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doo-bop days
by ブーツィラ
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■「阿寒のアイヌの歌と踊り」
「アイヌの歌謡は、生活に楽しみを増すためといった余裕のあるものではなく、もっと切実な、生きるために善神に救いを求め、生命をおびやかす魔神を威嚇して追いはらうための、絶対絶命の叫び声から発生したものである」(詩人・更科源蔵, 北海道中川郡「本別町史 概要」より)
第2部の終わりの方で披露された「エムシ リムセ」(刀の踊り)では、阿寒のアイヌ民族の女性たちによる祈るような歌と手拍子が繰り返されるなか、アイヌの男性2人が魔を祓う(はらう)ための刀を振りかざし、掛け声を発しながら勇ましく踊る。アイヌ民族の古式舞踊は「神への踊り」である(『アイヌ民族博物館』の「アイヌ文化入門」の12「神への踊り 1〜4」参照)。本来見世物ではないが、観せてもらう側にとって「エムシ リムセ」(刀の踊り)は見所の一つだろう。更科源蔵による前掲の説の具体例としても挙げられるかもしれない。
11/16(木)に東京・代々木上原のけやきホール(古賀政男音楽博物館・JASRACビル)で「阿寒のアイヌの歌と踊り」を観る。東京音楽大学付属民族音楽研究所主催の公開講座(入場無料)として行われ、出演したのは阿寒口琴の会の皆さん(代表: 弟子シギ子さん)。阿寒のアイヌ民族に伝わる古式舞踊を中心に、ウコウク(本公開講座のパンフレットによると「座り歌」、一般的には「輪唱」の意)、アイヌ民族の口琴であるムックリの演奏、樺太アイヌの弦楽器・トンコリの演奏を、第1部と2部合わせて約1時間40分披露してくれた。
第1部の始めの方では、阿寒のアイヌ民族に伝わるウコウク(「座り歌」)が7曲歌われた。10名の女性が2つに分かれ、シントコ(和人との交易で得た漆塗りの容器, アイヌにとって大変高価な宝物)のふたを囲み、輪になって座る。シントコのふたを片手で軽く叩いて拍子をとりながら、どの座り歌も輪唱で歌う。阿寒口琴の会の床 明さんが、座り歌の始まる前にそれぞれの歌の解説をしてくれるので、聴かせてもらう方としては歌の意味をつかんだうえで聴ける。
歌われたのは、山の神様である熊が暖かい毛皮とおいしいお肉を持って山から下りてきたと歌う「カラカラ」、(かもめの鳴き声の反復を挿入しながら)子を育てる親心を歌う「エアウオ」(「カピウ ウポポ」)など、どれもゆったりとしたリズムと素朴な旋律の繰り返しのあるもので、聴いていると心が自然と和むような歌ばかりだ。
これら7曲の座り歌は、弟子(てし)シギ子さん、床みどりさん、山本栄子さん(3人とも阿寒口琴の会)他が参加したCD『Mukkuri Hawehe − ムックリの響き:アイヌ民族の口琴と歌』(2001年, 日本口琴協会)にすべて収録されているが、十勝・帯広地方のアイヌの歌を伝承する安東ウメ子さんの作品では聴けない。アイヌ民族に伝わる歌(とその歌詞、意味、旋律、節回しなど)は、地方によって異なるものが多い好例だろう。
阿寒口琴の会は、1992年に弟子シギ子さん、床みどりさん、山本栄子さんの3人が中心となって発足した会で、世界口琴大会に何度も出演するなど幅広く活動している。今回ステージに登場したのは、前記3人を含む19歳から70代までの11名(うち男性2名)。さらに床 明さん・みどりさん夫妻の娘で、トンコリ奏者のOKIや安東ウメ子さんの作品への参加などで知られるアイヌの歌い手・床 絵美(旧姓、東京在住)も特別に参加した。
質問コーナーでの床 みどりさんの回答によると、阿寒のアイヌの踊りは普段の生活のなかで受け継がれているものなので、踊りを練習することは特にないが、特別な催しがある時は皆で集まり、週に2〜3回練習することがあるという。
阿寒口琴の会の皆さんの民族衣装は、同じ地域なので似通っているのではと思いきや、デザインや色合いなどどれも随分違う。地域や集落によって歌い方が決まっているアイヌの歌とは対照的だ。
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11月16日(木)
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