ID:48158
doo-bop days
by ブーツィラ
[192431hit]
■瞽女唄伝承者の萱森直子さん東京公演
「葛の葉子別れ」の三味線による伴奏は、段物を弾き語る時の小林ハルさんの演奏に忠実である。決まったフレーズの反復や、そのなかに歌い方と同じく織り込まれる即興性、高音の音程とリズム(間)が不安定気味に聴こえかねない間奏(一流れと一流れの間)も、小林ハルさん譲りの奏法といえよう。
トークでは触れなかったが、萱森さんは数か月前に入院している。体調が心配されたけれども、「葛の葉子別れ」での歌声と伴奏を聴くかぎり、杞憂に終わったようだ。
3番目の演目は、段物「葛の葉子別れ」一の段のダイジェスト版。ゲストとして招かれた三味線奏者&民謡の歌い手で、高田瞽女唄を探究・演唱する月岡祐紀子さんが歌った。月岡さんは、萱森さんよりも18歳年下で東京出身の方。月岡さんのゲスト出演が決まった理由は、長岡系と高田系の瞽女唄の違いを聴き比べて楽しんでもらうことと、主催者が病み上がりの萱森さんの体調を案じたためらしい。月岡さんは幼い頃から民謡と三味線を師範に学んでいる(父は尺八・篠笛の演奏家、月岡翁笙氏)。高校2年生の時に高田瞽女の最後の親方である杉本キクイ(キクエ)さん(1898‐1983)の瞽女唄の音源を聴き、こんな歌があるのかと衝撃を受けたそうで、その時以来、「ギター少年がレッド・ツェッペリンを聴いてギターにはまったように」瞽女唄にのめり込んだとも話していた。
月岡さんは19歳の頃から10年間近く、年に2~3回のペースで、小林ハルさんと杉本シズさん(杉本キクイさんの弟子で養女, 1916‐2000)と杉本家の手引きの難波コトミさん(1915‐1997)が入所する新潟の養護盲老人ホームを訪れた。瞽女唄のわからない点を教えてもらったり、瞽女唄を披露してアドバイスを受けることもあったそうで、小林ハルさんが月岡さんの三味線の伴奏で歌ってくださった時には感激したという。
一方、萱森さんによると、小林ハルさんは月岡さんという「しんね(心根・こころね)の良い娘(こ)が来た」と萱森さんにおっしゃったことがあった。人の悪口はもちろん、良いことも言わない、批評もしないハルさんがそんなことをおっしゃったので、すごく印象に残っており、いつか月岡さんにお会いしたいと願っていたそうだ。
月岡さんが演ずる「葛の葉子別れ」一の段のダイジェスト版は、10分くらいだったろうか。三味線は、高田瞽女の杉本キクイさんのメロディックで叙情的な奏法に則ったもののように聴こえるが、歌は民謡をベースとした瞽女唄のようだ。高田瞽女唄というと、杉本キクイさんの素朴で自然体、座敷芸にも通ずる演唱といったイメージが私には堅固にあるだけに、初めて聴いた月岡さんの民謡色の強い瞽女唄に、やや戸惑いを覚えた。瞽女唄とは、歌い手が持つ発声などの個性も生かしつつ、室町時代から歌い継がれてきたものなのだろう。
4番目の演目は、萱森さんによる段物「葛の葉子別れ」二の段。萱森さんは、歌詞にわからない言葉が出てきても聴き流して下さいという。瞽女唄を楽しむポイントの一つと言えそうだ。日本海の荒波が打ち寄せ、白い波しぶきを吹き上げるなか屹立する岩塊――萱森さんの演ずる瞽女唄のなかでも段物を歌詞や内容にとらわれずに聴いていると、そんな良い意味での荒々しさ、厳しさがイメージとして浮かぶことがある。
5番目および最後となる6番目の演目は民謡「佐渡おけさ」。高田系の月岡さん、長岡系の萱森さんの順番で「佐渡おけさ」を弾き語ってもらい、高田系と長岡系の違いを聴き比べる余興的な試みといえようか。
月岡さんに言わせると、高田系と長岡系は「メロディが何となく違うとしかいいようがない」。高田瞽女の杉本シズさんは「佐渡おけさ」を単に「おけさ」とおっしゃっていたそうだ。ちなみに、杉本キクイさんのCDでの曲名もそう表記されている。
長岡系の「佐渡おけさ」は、萱森さんによると、高田系よりも曲が短く、歌詞の文句もあってなきが如し。どんな文句でもはめられるという。両者の違いを強いて言えば、高田系の方が華やか、長岡系はより土着的でディープか。お2人とも相手が歌う「佐渡おけさ」に合いの手を入れていた。
[5]続きを読む
02月21日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る