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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■トイレットペーパーの悲劇
その日のオレはお腹の調子が悪かった。帰宅してからも何度かトイレに行き、なかなかトイレから出ることができず、大量のトイレットペーパーを消費してしまった。そしてやっと出られると思ったところでロール紙が尽きて、そこには芯だけが存在した。オレはなぜか新しいロール紙に交換することを忘れてそのままトイレから出てしまった。
リビングでテレビを視ていたオレは、いきなり妻に罵倒された。「なんで紙なくなったら新しいの入れてくれへんの?」「すぐ後ろにあるやん」「なんでいつも変えてくれへんの?」「いつも自分のことしか考えてへんから」と延々と罵倒されたのである。いつもならオレはちゃんと新しいロール紙に入れ替える。しかしその日は長時間トイレで苦しんだために、疲労困憊してついうっかり忘れていただけだ。ふだんのオレはちゃんとロール紙を入れ替える律儀なオッサンだ。
たった一度のうっかりが、オレの過去の全行動を否定し、オレは「トイレでロール紙がなくなっても補充しないで去って行く自分勝手な男」という汚名をこれから生涯背負うことになるのである。なんと悲しいことだろうか。オレはその一度の過ちをものすごく後悔したが、もう遅いのである。
同じようにオレがよく罵倒されることがある。それは脱衣室兼洗面所でのことだ。風呂から出てきて、バスタオルで体を拭き、バスマットで足を拭くわけだが、たまに水滴が床に落ちていることがある。気付いたらきちんと拭いておくのだが、たまに忘れてることがある。すると母は「もう、いつもびちゃびちゃや!」と盛大にオレを罵倒するのである。びちゃびちゃというほどに濡れてるわけがないと思うのだが、ちょっとでも水滴があるとそれは母から見れば「びちゃびちゃ」ということになるのである。かくしてオレは「風呂上がりに脱衣室をいつもびちゃびちゃにする男」ということになってしまうだ。なんと悲しいことだろうか。
果たしてオレは「自分のことしか考えてない」くだらないオッサンだろうか。オレはいつも日本という国家の行く末を案じているし、今起きている戦争で犠牲になっている無辜の民のことを思って心を痛めている。決して自分のことだけを思ってるわけではない。政治家の利権のために食い物にされる哀れな国民を救いたいと思って、維新の会という悪の組織と日々戦っている。そんなオレのどこが「自分のことだけしか考えてない人間」なんだろうか。
たった一度、ロール紙を交換しなかったことでオレは妻からのすべての信頼を失ったのである。何十年もかけて築いてきたものが、こうしてたった一度の過ちから失われてしまうということはよくあることだ。プロ野球の世界でいくら守備の名手として評価されていても、勝負が決まる場面でタイムリーエラーをしてしまえばそれですべての評価が覆ってしまうように。
オレは固く心に誓ったのである。もう絶対にこんなミスはしないと。しかし、正しい行為をいくら続けていてもそれは誰も気付かないのである。物事はミスした時だけ人に気付かれるのである。オレは今回のトイレットペーパーの悲劇から、人がいかに生きるべきかという人生の大きな真理にたどり着いたのである。どんなに完璧な人間でもたった一度の過ちで全てを失うのだ。肝に銘じておきたいのである。
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11月08日(水)
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