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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■受験もドーピング禁止にしろ!




 普通の素質、あるいは普通よりも劣った素質の子どもを幼い頃から塾漬けにして勉強させ、難関校、難関大学への進学を目指させるということは本人にとっては大きな負担となる。ストレスに耐えきれない子にとっては破滅的な結果が待っている。しかし、ある程度の効果は発生することもまた事実だ。つまり、普通よりも劣った素質の子どもでも普通のレベルの学歴を身につけることが可能になるとか、普通の素質しかないのに東京大学に進学できるということである。

 オレはこれまでに多くの受験生を見てきたからこそ思うのだが、生徒の素質には大きな差が存在するし、知的好奇心や向上心もさまざまである。およそ勉強には向かないいわゆる「ヘタレ」も一定割合で存在するし、道徳心が大きく欠如したいわゆる「DQNそのもの」という難儀な子どももそれなりに存在するのである。

 すぐれた素質があり、教育熱心で理性的・道徳的な両親に恵まれて育った子が学習塾で学んで力を付ければ受験戦線で有利になることはもちろんだが、そういう子は別に学習塾に行かなくても(つまりドーピングしなくても)それなりに戦えるのである。もちろんドーピング(進学塾への通塾)した方が有利なことは間違いない。家が貧乏だったこともあってオレは小中高を通じて学習塾などには無縁だったが、地域最難関の公立高校に進学できたし、そこから現役で京都大学に進むことができた。いわゆる「非ドーピング組」である。

 大学に入学して感じたことは、文学部にはなぜか有名進学校・進学塾からのドーピング組があまりいなかったことである。地方の公立高校出身者が多かったが、すでに学びたい分野を決めているものが多く、オレのような不真面目な人間は少数派だった。ドーピングの理由そのものが現世利益であり、そういう意味では「文学部」なんて進路は割に合わないのだろう。

 そのドーピング、つまり「ゼニをたっぷりかけた塾通い」なんだが、大阪では北野高校の合格者の9割は「馬渕教室」という学習塾の出身者で占められるようになった。年間に数十万の塾代がかかる生徒が、公立高校トップの9割を占めているというのがどういうことかわかるだろうか、大阪では金持ちしか公立高校トップには行けないということになりつつあるのである。全員がドーピング環境となれば、ドーピングできない者が負ける。もしもオリンピックがそういう状況になればどうなるかを考えて欲しい。

 中国は過熱する受験競争を鎮静化するために受験産業を壊滅させた。営利目的の塾産業を規制したのである。これは行き過ぎたドーピングを規制したともいえる。全員がドーピングしていれば受験の結果はドーピングに左右されるが、ドーピング禁止にすればフェアな戦いになるということである。

 オレは日本でもこのドーピング禁止を考える時期だと思う。特に大阪はひどい状況である。受験生を抱える大阪の保護者は、日本一高額の教育費負担をさせられているのである。そして負担できない家庭は競争に参加できない。だから階級格差はますます拡大するのだ。大阪の場合は南北問題もあるわけで、大和川以南の地域はますます発展から取り残されていくのである。

 大阪でこのドーピングを規制するにはどういう方法があるだろうか。まずは学区制の復活である。そして進路指導の主導権を塾から中学が取り戻すことだ。塾を昔のように「勉強は出来ないがゼニはある」という子どもたちが行く場所にしないといけない。一方で子ども食堂と連携した無償塾を作り、ろくに家で勉強できない子を無くすことだ。これが貧困対策や犯罪対策となる。馬鹿な若者ほど闇バイトや犯罪、薬物に染まりやすいからである。

 大阪では公教育が崩壊した。給料は低いのに仕事は増えるというブラック化した職場であることが有名になり、志願者が激減したことも理由である。初任給だけを上げてそのまま4年間は給料が据え置きとかいうイカサマもあった。そうなるとますます塾が栄えることとなる。そもそも小学校、中学校の公教育が充実していれば塾などいらないのである。

 オレはドーピング禁止を訴えたい。そして、維新の教育行政の下でどんどんつぶされていく公立高校の復権を訴えたいのである。


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08月05日(土)
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