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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■アルデンテおばさんの思い出
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 まだ結婚する前のことだからもう20年以上も前の話である。オレは近所にあったスーパー、イズミヤの軽食のコーナーで、たこ焼きやラーメン、焼きそばなどを食べることが多かった。値段もかなり安く、デートする相手も予定もない休日の昼などによく立ち寄った。ただ、そこで提供されるメニューの中でオレは300円のミートスパゲティが不思議と気に入っていた。

 もちろん、そんなところでたいしたものに出会えるはずがない。スパゲティといっても腰のないぶよぶよのうどんのような軟らかい麺だった。ところがあるとき、いつもと違ってちゃんと腰のある硬めの麺が出てきて、とてもおいしかったのである。

 なぜ茹ですぎてぶよぶよのうどんのような麺と、ちゃんと腰のある麺があるのか。何度か通ううちに、それは調理するパートのおばさんによって違うことに気がついたのである。スパゲティを注文すると、冷凍の麺を出してきてお湯につけて解凍している。そのお湯につけている時間がどうも違うようなのである。オレはその時間をこっそりとはかった。そこで気がついたことは、おいしい麺になる時はゆで時間が秒単位までほぼ一定なのである。そしてまずいときはそれよりもかなり長時間茹でられていて、時間も不規則である。いつもピッタリの時間で茹でて出してくれるそのスパゲティの達人のおばさんのことを、オレは心の中で「アルデンテおばさん」と呼んでいて、そのおばさんがいるときは必ずミートスパゲティを注文し、いないときはたこ焼きとかイカ焼きという別のメニューを選ぶことにしていたのである、

 アルデンテおばさんがいないときは、どんなにスパゲティが食べたくてもあきらめて他のものにした。他のパートのおばさんが茹でたときはどうも食べる気にはなれなかったのだ。しかし、何ヶ月も出会えなくて、おそらくはパートをやめてしまったとオレが気づいたとき、メニューからミートスパゲティは消えた。たぶん誰も注文しなくなったからだろう。

 アルデンテおばさんはその絶妙のゆで時間のことに気がついていたのだろうか。その冷凍麺には最適のゆで時間が記されていて、おばさんはそのマニュアル通りに出していただけで、他のパートは時間を守っていなかったのだろうか。それともその絶妙のゆで加減はそのおばさんが発見したものだったのか。

 達人というのは意外なところにいるのかも知れない。そんな場所でとびきりおいしいモノに出会えるなんて普通の人は期待していない。その茹で具合の絶妙さに気づいていた人はどれだけいたのだろうか。何より茹でている本人は気がついていたのだろうか。そんなことをオレはあれこれと考えるのである。

 いつのまにかその軽食のコーナーにはマクドナルドやミスタードーナツが入り、メニューも大幅に減ってしまった。子供や主婦が空腹を満たすためだけのメニューが並ぶという、なんのへんてつもない状況になってしまったのである。

 今でもオレはスパゲティが好きなので、家で自分で作ることもあるし、店で食べることもある。そのときに思い浮かべるのはあのアルデンテおばさんに茹でてもらった古い記憶の中のミートスパゲティである。あまりに昔のことなので、アルデンテおばさんの顔もすっかり忘れてしまって思い出せない。しかし、あのときのミートスパゲティと全く同じモノを食べることができれば、きっと「これじゃないか!」と思い出せるはずである。

 あのスパ茹で名人のおばさんは、今はどこで何をしているのだろうか。まさかこんなふうに覚えている客がいたことなんて想像もしないだろう。

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06月21日(月)
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