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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■東大刺傷事件についての私感
範囲が狭く問題が易しい共通一次では高得点できても、二次試験レベルの問題が解けるとは限らない。オレは広く浅い知識を必要とする共通一次では9割を超えて得点できるのに、数学Vや物理Uの勉強ではかなり手を焼いた。微分積分は得意だったが、数列や漸化式は苦手だった。現役で京都大学医学部なんてとても無理だと思ったし、浪人して頑張ればなんとかなったかも知れないがそもそも浪人なんてしたくなかった。
高校3年の夏休みは趣味の自転車旅行にも行けず、ずっと数Vや物理U、化学Uの問題と格闘しつづけた。古文漢文はすでに高校1年の時に完成していたし、現代文なんて模試の時に真剣に問題を解くだけで普段の勉強なんか皆無だった。オレは理系科目と格闘して苦しみ、高校3年の秋にそこから逃げた。ほぼ一か月勉強しなかった。片思いしていた女の子に振られ、自暴自棄になった結果のことである。その結果としてもう数Vや物理U、化学Uをやらなくてもいいという晴れ晴れした気分で文系への逃亡者となった。
オレには幸いなことに「絶対に医学部に行かなければならない」というプレッシャーはなかった。ただ、商売人だったオレの父親は息子を医学部に入れたらゼニになると思っていたようだし、本家の跡取りであるオレの従兄弟は三国丘高校から自治医大を出て医師になっている。だがオレは18歳にして「京都大学文学部」という人生の落伍者の集団に身を投じることを選んだのである。
オレの進んだ道は医学部の対極だったわけだが、もともと医学部に行きたい動機が不純だったわけで、そんな人間よりも奉仕の精神に溢れる有為な人材が入るほうが税金で運営された国立大学の医学部にとって有益なことである。
現役で京大医学部に入る困難さを思えば、文学部なんて受験のうちにも入らない。貧困な家庭に生まれ、高校1年の時は劣等生として級友から見下されて差別されるという経験をしたオレは、「医学部に入る」という実質よりも、「京大文学部」というブランドの方を手に入れたかったのだ。そんな不真面目などうしようもない人間だったのだ。文Tや文Uに見下される東大文Vよりも、18歳にして人生を捨てたという京大文学部の方がカッコいいし女にモテると思っていたのである。太宰治や坂口安吾、織田作之助のような無頼派の作家にあこがれ、放蕩無頼の人生を生きようと思ったのが当時のオレの姿だった。
オレは大学の4年間、ろくに勉強しなかった。いざという時の就職用に国語科の教員免許を取るための単位取得と、卒業に最低限必要な単位の取得以外はバイトと旅行とナンパに明け暮れていた。だから大学の4年間しっかりと勉強された方には本当に申し訳ないと思ってるし、オレのようなふまじめな受験生が合格したということは、その代わりに本当に学ぶ意欲に燃えていた未来ある学生の居場所を奪ってしまったということなのである。
担任から「東大理Vは無理」と言われて人生に絶望した少年の担任教師がもしもオレだったら、きっと今回の事件は起きなかったはずだ。さまざまな医学部受験生を見てきたオレは彼に「絶対に入りたいなら合格するまで何年でも受け続けろ」と東大受験を勧めたはずである。進路指導に正解はない。人生がその先どうなるかは誰にもわからないからである。
←1位を目指しています。
01月18日(火)
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