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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■『誘拐の掟』を観て
アルコール依存症とAAが登場する映画がいくつかあります。お勧めどころを挙げると、ビル・Wの伝記的な映画「ドランカー(My Name is Bill W.)」、サンドラ・ブロック主演で施設での4週間の治療を描いた「28DAYS」、AAが制作に協力した「酒とバラの日々」、イギリス映画の「マイ・ネーム・イズ・ジョー」、メグ・ライアン主演の「男が女を愛する時」、他に「チェンジング・レーン」、「フライト」もお勧めしておきましょう。
つい先日、マット・スカダーシリーズの小説「墓場への切符」を映画化した「誘拐の掟」を見に行ってきました。その感想を含めて最近感じていることを書きます。
誘拐の掟
http://yukai-movie.com/
マット・スカダーシリーズは、アメリカの推理小説作家ローレンス・ブロックが30年近くにわたって書き継いでいるハードボイルド小説です。長編17冊が日本語に訳されて出版されています。
マットはニューヨーク市警の警官でしたが、非番の夜に警官にタダで飲ませてくれるバーで飲んでいたところ、その店が強盗に襲われます。彼は強盗を追いかけるのですが、その途中で撃った拳銃の弾が跳ねて7才の少女の目に当たり、その子を死なせてしまいます。マットは犯人逮捕の功績を表彰され、少女の死の責任を問われることはありませんでした。しかし、彼は警察を辞め、酒に溺れるようになり、やがて妻子と別れてしまいます。
一冊目に登場するマットは、飲んだくれの私立探偵になっています。(その後、数作に渡って彼は飲み続けます)。私立探偵とはいっても、ライセンスは持たず「知り合った友だちの頼みを引き受け、経費と僅かの報酬をもらうだけ」なのだと言います。
ローレンス・ブロックが書き、訳者田口俊樹が日本語にした文章からは、マットが背負った人生の切なさが匂い立ってくるかのようです。優れたハードボイルド小説なので、お暇があったら、ぜひ読んでいただきたい。1970〜80年代のニューヨークのAAの様子が描き出されているので、その点でも面白いし。
実はマット・スカダーシリーズは、以前に一回映画になっています。シリーズ中一番の名作とされる「八百万の死にざま」を原作に、1986年に映画が作られました。Amazonで探しところ、DVD化されておらず、商品はVHSしかありません。これはひょっとして映画は人気がなかったのか・・・観て理由がわかりました。舞台は陽光溢れるロサンゼルスに変えられているし、マットの人物描写も原作の人生の哀しみを背負った男から、なんだかチャラい軽薄男になっているし、なによりストーリーが少女の死以来、拳銃を握れなくなっていたマットが、トラウマを克服して拳銃をバンバン撃ちまくれるようになっちゃったりして・・。全然違った話になっていますから、マット・スカダーのファンからは黙殺されたとしても無理のない映画でした。
おまけに、その映画のエンドロールに、大きく「Alcoholics Anonymous」とクレジットが出てきたのを見たときには、思わずorzでしたよ。もう。こんな映画に、こんな映画、こんな映画にAAの名前が大きく出ているなんて!
そんなわけですから、「八百万の死にざま」の映画は見ない方が良いです。小説のほうは、とってもお勧めです。
で、今回の「誘拐の掟」は(結論から言うと)観てとても楽しめました。ただし、万人向けとは言い難い。誘拐犯はサイコパスのシリアルキラーで、おぞましいシーンもビジュアルに描写されますから。
それで、映画のストーリーがネタバレにならない程度に感想を書いてみたいと思います。推理小説ファンという立場からでなく、12ステップ的な観点から。
マット・スカダーの小説を読んでいる人で、なおかつ12ステップやAAに親しんだことのある人は、主人公マットの行動に違和感を憶えることもあるんじゃないかと想像します。なぜなら、マットはさらりと嘘をつくこともあるし、人を見捨てたり、敵対的な相手をためらいなく陥れたりするからです。そうした行動は、正直とか謙虚とか、正しさを求める12ステップの生き方と矛盾しているのじゃないだろうか、と。
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06月18日(木)
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