ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■またまたDSM-5
NHKスペシャル「ここまで来たうつ病治療」は、やはり残念な番組だったようですね。見てないので、あちこちのブログの評判から判断しているだけですけど。TMS(経頭蓋磁気刺激)の素晴らしさみたいな話は聞きますが、じゃあなんで今までECT(電気痙攣療法)が避けられてきたのかっていう話は出て来なかったのでしょう。
以前「リサーチ200X」っていう、一見科学的でありながら「そんなわきゃねーだろ」とツッコミを入れながら見るのが楽しみという番組がありましたが、最近のNスペもそういう路線ですか?
さて、DSM-5への改訂作業は1999年から始まっているそうですが、ようやくホームストレッチにさしかかったようです。
DSMについて簡単に説明しておくと、アメリカ精神医学会(APA)の定めている、「精神疾患の分類と診断の手引(Diagnostic and Statistical Manual)」のことで、精神医学の診断バイブルとも呼ばれています。現在使われているのはその第4版改訂版(DSM-IV-TR)です。DSMの変更はアメリカ国内のことですが、やがて日本にも影響が及んでくることは間違いありません。
雑記でもDSM-5については何度か言及しています。
DSM-5ドラフト
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=19200&pg=20100224
ドラフトに対しては、いろいろな反応があるようです。まず発達障害関係では、自閉症・アスペルガー症候群・PDDNOSなどが「自閉症スペクトラム障害(ASD)」に統合されることになっていますが、合わせて行われる診断基準の変更によって、多くの人たちが該当しなくなるという指摘があります。
DSM-5:自閉症の多くが診断クライテリアから外れる可能性
http://kaigyoi.blogspot.com/2012/01/dsm-v.html
[自閉症]DSM-5:自閉症スペクトラム障害の診断基準変更に伴うインパクトに関する報道について
http://d.hatena.ne.jp/bem21st/20120122
自閉症の範囲が狭くなると、グレーゾーンの人たちが健常だと判断されることになり、必要な福祉サービスや支援を受けられなくなる、という問題があります。
自閉症の線引きを縮小したほうが、国の負担が減ったりとか、あるいは以前に書いたようにADHDへ患者を振り向けてADHDの治療薬を売りたい製薬会社や、支払額を減らしたい保険会社の思惑があったりする・・のかもしれません。
依存症関係では、DSM-IVで「物質関連障害」と呼ばれていたものが、ドラフトでは「嗜癖およびその関連障害」という表現に変わり、「依存」という言葉は捨てられています。
以前、依存とは離脱症状のことだと書きました。しかし乱用薬物の中には離脱症状のハッキリしないものがあって、依存を頼りに診断するのは不適切です。またまた頭痛薬や胃薬や花粉症の薬にも離脱症状があって、それはアディクションとは言えません。結局依存というのはアディクションを表現するのに適切な言葉ではなかった、という反省があります。(さらには、アディクションの対象が物質以外にまで広がるに当たって、人が何かに「依存すること」そのものが悪だという誤解まで生じてしまいました)。
さらにドラフトがチャレンジングだったのは、対象をアルコールや薬物に限らず、ギャンブルを含めたことです。ギャンブルは「病的賭博」として衝動制御障害の中に入っていたのを移動させました。さらにインターネット嗜癖とセックス嗜癖をAppendixに置きました。
これは物質使用(アルコールとその他薬物)とそれ以外のアディクションの間にあった垣根を取り払い、アディクションとして一つの分野に統合しようという、とても意欲的な取り組みでした。しかし、パブリック・コメントを受けて、病的ギャンブルは元の衝動制御障害に戻っています。統合は頓挫した形です。
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02月16日(木)
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